部分完成基準の理解と、下請業者が慣習的に出来高で請求する工事との違いを考えてみたい。

部分完成基準は、法人税法の基本通達2-1-9(以下「通達」という)に規定されている。

通達の内容は、次のとおりである。

(部分完成基準による収益の帰属時期の特例)

法人が請け負った建設工事等について、次に掲げるような事実がある場合には、その建設工事等の全部が完成しないときにおいても、その事業年度において引き渡した建設工事等の量又は完成した部分に対応する工事収入をその事業年度の益金の額に算入する。

(1)一の契約により同種の建設工事等を多量に請け負ったような場合で、その引渡量に従い工事代金を収入する旨の特約又は慣習がある場合

(2)1個の建設工事等であっても、その建設工事等の一部が完成し、その完成した部分を引き渡した都度その割合に応じて工事代金を収入する旨の特約又は慣習がある場合

但し、法64条第1項の「長期大規模工事の請負に係る収益及び費用の帰属事業年度」の規定の適用があるもの及び同条第2項「長期大規模工事以外の工事の請負に係る収益及び費用の帰属事業年度」の規定の適用を受けるものを除く。

つまり、工事進行基準の適用を受ける工事の請負は除くという意味である。(筆者)

 

以上が通達の規定である。

部分完成工事は、全部は完成していないが、完成した一部分の引渡しをもって収益を認識するとあり、「引渡し」がポイントになる。一部分を引き渡すことが条件になっている。長期大規模工事の請負に適用する工事進行基準は、引き渡しは行われていない。工事の進捗度に応じて、収益を認識する基準である。部分完成工事と工事進行基準の違いは、引き渡しがあるか、ないかで判断する。

 

また、「法人税基本通達遂条解説」には、次のように解説されている。

1.建設請負(工事進行基準の適用を受ける工事の請負を除く。)に係る収益は、完成引渡基準により計上するのであるが、本通達においては、この場合の完成引渡しの「単位」が定められている。

すなわち、請負契約に係る建設工事等の全部が完成しない場合でも、部分的に完成して引渡しを了したと認められるときは、その引渡しをした部分ごとに完成引渡基準が適用されるということである。

本通達の(1)は、例えば、100戸の建売住宅の建設を請け負ったような場合に、1戸を引き渡す都度工事代金を収入する旨の特約又は慣習がある場合である。

また、本通達の(2)は、例えば1,000メートルの護岸工事を請け負い、そのうち100メートルごとに完成した都度引渡しをし、その都度に応じて工事代金を収入する特約又は慣習がある場合である。

なお、この部分完成基準は、収益計上に関する特則として、工事完成前に収益の先行的に計上を行うことが認められている「工事進行基準」とは異なり、選択的に適用できるというものではないことに留意すべきである。

 

2.ところで、法人税法第64条第1項に規定する長期大規模工事に該当する工事については、工事進行基準の方法により計算した金額を益金の額及び損金の額に算入することとされているが、工事進行基準が適用される長期大規模工事に該当する工事について、その目的物の全部の完成・引渡しが行われる前に、部分的に完成して引渡しを行った場合には、この部分完成基準により収益及び費用を計上しなければならないかという疑問が生じる。

この点、部分完成基準は工事完成基準の一形態であり、工事進行基準とは異なる収益計上方法である。したがって、工事進行基準が適用されることとなる長期大規模工事に該当する工事については、部分完成基準が適用される場面は生じないこととなる。このことは、長期大規模工事以外の工事で、その着工事業年度中にその目的物の引渡しが行われないものについて工事進行基準の適用を選択した場合も同様である。

以上が通達の逐条解説である。

つまり、部分完成工事は工事進行基準でなく、工事完成基準の一形態である。工事進行基準を適用して、工事収益を計上する場合は、工事原価の進捗度をはかり、工事収益を計上する方法であり、適正な工事原価の見積りが求められる。

部分完成工事は、一部分の引渡しがされているが、工事進行基準は、引き渡しがなく、適正な工事原価を見積り、進捗度に応じた収益を認識する基準である。

部分完成基準の場合は、遂条解説にあるように「完成引渡しの『単位』が定められている場合」であり、例示に示されているように「建売工事で、1戸を引き渡す都度工事代金を収入する旨の特約又は慣習がある場合」とか、「護岸工事で、100メートルごとに完成した都度引渡しをし、その都度に応じて工事代金を収入する特約又は慣習がある場合」である。つまり、一定の単位が基準になっていて、工事進行基準とは異なることが理解できる。また、単位ごとに収益が確定し、その原価も確定している。工事進行基準のように、工事の進捗度に応じて、工事原価を見積り、先行的に工事収益を認識する方法とは、違うことが理解できる。

次に、下請業者が慣習的に、毎月、出来高で請求する工事は、この部分完成基準には該当しない。なぜならば、部分完成基準は「単位」ごとの完成工事で収益を認識しているからである。出来高請求は一定の単位ごとではなく、工事が出来たところまでを月末締め等で請求している。それは前受金的性格(未成工事受入金)であり、その前受金を出来高で請求しているだけに過ぎない。また、部分完成工事は、一部分を引き渡すことによって収益が認識されるが、出来高請求は、単に出来たところまでを請求しているだけで、引き渡しがされていない。この2点が違う。

工事完成基準を採用するにしろ、工事進行基準を採用するにしろ、前受金で処理するのが正しい会計処理である。しかし、小零細建設業は、建設業会計ではなく商業簿記で会計処理をしているので、出来高請求額を前受金で処理せずに、売上高に計上しているのが現状である。

つまり、出来高請求額を売上高に計上する方法は、小零細建設業における実務的な会計処理に過ぎず、正しい会計処理ではない。商業簿記で会計処理をする場合でも、出来高請求額を前受金勘定に一旦計上し、工事が完成した時に、前受金勘定から売上高(完成工事高)に振り替えるのが正しい会計処理である。