下請業者の出来高請求と工事進行基準との違いを見ていこう。

工事収益の認識基準として、工事完成基準と工事進行基準は、企業会計原則や工事契約に関する会計基準、運用指針(以下「会計基準等」という)に規定されている。ここにいう工事進行基準は、工事の進捗度に応じて、工事収益を認識する基準であり、その進捗度を一定の基準で算出して、適正な原価見積りを把握する。毎月出来高で請求する方法とは異なり、必ずしも請求書を発行するわけではない。請求書を発行するしないにかかわらず、収益を認識しなければならない基準である。期間損益を適正にならしめるための工事収益の認識基準の一つでもある。もっとも、工事進行基準を採用している場合でも、出来高に関係なく前受金を収受する場合があるが、これは前受金(未成工事受入金)であり、工事収益ではない。

会計基準等では、工事進行基準が原則適用であり、適正な工事原価の把握が出来ない場合に工事完成基準を適用することになる。小零細建設業者で適正な工事原価の算出は、複雑であり、経理担当者の人材不足等もあり、工事進行基準を適用しているところは皆無である。また、法人税法の規定では、10億円以上の工事には、工事進行基準が強制適用されるが、小零細建設業者では、一つの工事で10億円以上を受注することは殆どないので、通常、工事完成基準で工事収益を認識するのが一般的である。しかも、公共工事等の元請工事を受注することもあるが、大半が下請工事である。その下請工事を出来高で請求しているのが、小零細建設業者である。

しかし、小零細建設業者を除く中小建設業者では、法人税法上の強制適用ではないが、工事期間が1年を超える工事に工事進行基準を適用して企業もある。また、親会社の連結決算で、工事進行基準を適用する場合もある。いずれにしても、工事進行基準を適用する場合は、工事原価を適正に算出することが重要である。

一方、下請業者が慣習的に、毎月、出来高で請求する工事は、工事が出来たところまでを月末締め、20日締め等で請求している。それは前受金的性格(未成工事受入金)であり、その前受金を出来高で請求しているだけに過ぎない。工事を請け負った時に、着手金、中間金として受取る前受金と同じ性格であり、その前受金を出来高で毎月請求している実務的慣習である。工事完成基準を採用するにしろ、工事進行基準を採用するにしろ、前受金で処理するのが正しい会計処理である。しかし小零細建設業者は、建設業会計ではなく商業簿記で会計処理をしているので、出来高請求額を前受金で処理せずに、売上高に計上しているのが現状である。

つまり、出来高請求額を売上高に計上する方法は、小零細建設業者における実務的な会計処理に過ぎず、正しい会計処理ではない。商業簿記で会計処理をする場合でも、出来高請求額を前受金勘定に一旦計上し、工事が完成した時に、前受金勘定から売上高(完成工事高)に振り替えるのが正しい会計処理である。

ゆえに、会計基準等で規定する工事進行基準とは異なる。

そうすると、小零細建設業者が商業簿記で、毎月の出来高請求額を売上高で計上するのではなく、前受金勘定で処理して、工事完成時に工事収益(売上高)を認識すれば、それは工事完成基準を採用したことになる。また、工事進行基準を採用すれば、やはり、会計基準等に規定しているとおり、進捗度を一定の基準で算出して、適正な原価見積りを把握する必要がある。しかし、小零細建設業者では、工事進行基準を採用しているところは少ない。もっとも、その会計処理が商業簿記であろうと、出来高請求額を前受金勘定で処理して、適正に工事原価を把握し、工事完成基準や工事進行基準で売上高を計上するならば、それはそれで適正な処理と言えよう。

しかし、出来高請求分を前受金勘定で処理せずに売上高で計上するならば、自動的に出来高請求分が工事収益になり、あたかも工事進行基準と勘違いしやすい。上述のように、出来高請求は前受金であり、出来高を売上高に計上しているに過ぎない。小零細建設業者は、ステークホルダー(企業の利害関係者)として税務署が一番気になるところであり、このような会計処理をしても、税務署は文句を言わない。なぜならば、工事が完成する前に売上高を先に計上していることになるからである。正しくない会計処理としても、現実に実務的に行われている。