1.収益の計上時期

法人税法では、各事業年度の所得金額は、その事業年度の益金の額からその事業年度の損金の額を控除した金額とされている。ここでいう益金の額については、別段の定めがあるものを除き、商品、製品等の販売による収益、有償による資産の譲渡による収益とされているが、実際の所得金額の計算においては、これらの収益をどの段階で収益としてとらえるか、いつの事業年度の収益として計上するのかによって、各事業年度の所得金額が異なってくる。このため、収益の計上時期については、取引態様に応じてそれぞれ一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算することとされている。(法人税法22条2項4項)

これが、法人税法の原則規定である。一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算することになっている。しかし、建設業における工事請負の収益計上は、別途、法人税法64条や基本通達で定めている。

 

2.請負による収益の計上時期(工事完成基準)

建設や造船などの請負のように目的物の全部を完成し、相手方に引渡しを必要とするものは、物を引き渡した日とされている。(基本通達2-1-5)したがって、建設工事の場合には、工事完成基準により、工事を完了し目的物の引渡しを了した段階でその収益の計上を行うことになる。

なお、請負について民法では、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対して、その報酬を支払うことを約することによって、その効力を生じる契約とされ、また、その報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならないとされている。法人税基本通達では、このような民法の規定に合わせてその収益の計上時期を定めている。

 

3.引渡しの日の判定

物の引渡しを要する請負においては物の引渡しが収益の計上時期とされているが、建設工事における引渡しの判定は、作業を結了した日、相手方の受入場所へ搬入した日、相手方が検収を完了した日、相手方において使用収益ができることとなった日等建設工事の種類および性質、契約の内容に応じて、その引渡しの日として合理的であると認められる日のうち法人が継続して収益の計上を行うこととしている日によることになる。(基本通達2-16)

この基準については、合理的な理由がない限り、みだりに変更ができないことに留意する必要がある。

実際の建設工事においては、工事完了証明書の交付や建築物件の鍵の引渡しなどによって引渡しの日を判定することになる。

なお、建築物件の引渡しが完了しているにもかかわらず、たとえば側溝を補修しているという理由で引渡しの日を先延ばしすることはできないと考えられる。

 

4.部分完成基準の適用(特例)

すると、一括して多数の建売住宅の建築工事を請け負った場合、そのすべての物件の引渡しを完了しないと収益の計上ができないのかと疑問が生じるが、法人税基本通達では、次のような場合には、工事全体で捉えるのではなく、個々の工事ごとに部分的に工事完成基準を適用し、建設工事の全部が完成しないときにおいても、その事業年度において引き渡した建設工事の量または完成した部分に対応する工事収入を、その事業年度の収益に計上しなければならないとしている。(基本通達2-1-9)

すなわち、1つの建築工事であっても、その一部分の完成のつど、またはその割合によって工事代金を受け取る場合には、部分工事の集合体と考え、部分完成基準を適用することになる。

この部分完成基準は、下請業者が出来高で請求する工事代金とは異なる。出来高で請求する工事代金は、前受金的性格であり、慣習的に出来高で請求しているだけである。したがって、前受金(未成工事受入金)勘定で処理し、工事が完成した時に前受金勘定から売上高(完成工事高)に振り替えるのが、正しい会計処理である。部分完成基準は一部分の物の引き渡しがあり、出来高請求は物の引渡しがなく、単に出来高で請求しているにすぎない。この点でも違いが理解できる。小零細建設業者は、この出来高で請求した金額を前受金勘定で処理せずに、売上高で計上しているのが現状である。

 

5.長期大規模工事における工事進行基準の適用(特例)

工事請負に係る収益の計上時期の特例として、次の要件をすべて満たす長期大規模工事については、工事の進行割合に応じて、各事業年度の収益の額および費用の額を計上しなければならず、強制適用となる。(法人税法64条1項)

⑴ 着手の日から当該工事にかかる契約において定められている目的物の引渡しの期日までの期間が1年以上であること(法人税法64条)

⑵ 請負金額が10億円以上の工事であること(法人税法施行令129条)

⑶ 契約において、請負金額の1/2以上が工事の目的物の引渡しの期日から1年経過後に支払われることにはなっていないこと(法人税法施行令129条)

なお、工事進行基準が適用される長期大規模工事について、その目的物の全部の完成による引渡しが行われる前に、部分的に完成して引渡しを行った場合には、部分完成基準により収益および費用を計上する必要はないのかという疑問が生じるが、部分完成基準は工事完成基準の一形態であり、工事進行基準とは異なる収益計上方法である。したがって、工事進行基準が適用される長期大規模工事に該当する工事については、部分完成基準が適用されないことに留意する必要がある。

さらに、長期大規模工事であっても、事業年度終了時において、工事着工の日から6月を経過していないもの又は工事の進行割合が20%未満のものは、工事進行基準を適用しないことができる。(法人税法施行令129条6項)