中川オーナーズ倶楽部の勉強会に参加した。

講演者は㈲中里スプリング製作所の代表者である中里良一さん。従業員24名。会社は群馬県高崎市上中居町にある。

演題は「金でなく頭を使え、中小企業の生き残り発想法~町工場流の経営哲学を語ろう」である。

講演会場で、中里さんの著書を買った。「負けるな町工場」「必勝発想法(町工場の経営)」「21世紀、平成時代を生きる若者へ!(ユメ年表を作ろう!)」の3冊。

 

6820種類の規格ばね、ナスパックシリーズという。多品種少量ニーズにマッチしたスプリングを製造している。例えば、脳手術で一時的に血を止める医療用バネも創っている。新聞に掲載されること210回。書籍で紹介されること137回。テレビ、ビデオの出た回数が10回。講演回数は43都道府県で244回である。

 

淡々と話が進む。けっしてプロみたいに話し方がうまいわけではない。しかし、中身はプロを遥かに凌駕している。ご自分が経営しておられる会社の実体験の話であるから説得力が違う。2代目であるが、傾きかけた父親の町工場をみごと再建した。引き継いだ時の得意先は1社。現在は24人の従業員で、43都道府県に広がった約1,700社の得意先の要望に応えている。あと、鳥取、高知、徳島、鹿児島の4県だけ。

 

だんだんと中里さんの調子が上がってくる。好きな取引先に全力投球せよ!残業廃止論など、7つの常識(道具)を話された。町工場が勝利するための10の鉄則や生き残りのための44の法則である「必勝発想法(町工場の経営)」もユニークで、目からウロコの書物である。

 

○ 町工場が勝利するための10の鉄則

1.不良品を怖がるな

2.機械の合理化よりも心を合理化せよ

3.経営者は地元の名士になるな

4.仕事は腹八分目にせよ

5.他社のものまねをするな

6.工場はブラックボックスにしろ

7.害虫企業になるな

8.経営者はバカに徹しろ

9.社員の失敗を責めるな

10.たえず遊び心をもて

 

遊び心とは、一生懸命に努力した人間だけが遊び心を得る。努力する者は夢を語る。怠け者は愚痴を言う。こだわりの経営。役職も課長までは、従業員の希望制でなれる。

 

グリーンと黄色の作業服。グリーンの作業服を着て工場に出る時は、やる気満々の日。黄色は、体の調子が悪い時や気がのらない時に着る作業服、工場に居てくれるだけでいい日。どちらの色を選ぼうと従業員の自由。自由性に任している。

 

町工場は3K。暗い、汚い、きつい。中里社長の3Kは違う。企画力がない、既成概念から抜け出せない、希望がない。違った角度から、思い込み、思い違い、思いあがり、3バカの思いである。

 

優等生がこない町工場であるが、優等生でない従業員の個性を磨いて既成概念を打ち破る従業員に育てる名人、中里良一さん。

 

52歳の方を中途採用した。的屋風情の男である。能力も才能のない。ただ一つ書道が上手であった。中里社長は彼の長所を活かして、従業員全員の名前を表札みたいな板に書いてもらった。それを道場みたいに、工場の一ヶ所に掲げた。彼の作品が毎日見れるわけである。彼はやる気を起こす。研磨をする仕事でみごと実力を発揮して、68歳まで16年間勤めてくれた。

 

彼が辞める時に、彼の奥さんからのプレゼントで「ポシェット」をいただいた。中里社長は今も大事に使っている。その奥さん曰く、「主人がこんなに長く一ヶ所のところで働いたことがない」と言う。その奥さんのお礼と感謝の気持をして、中里社長の人を大切になさる、長所だけを見る、お人柄が溢れている。ほとばしる愛情と経営者としての器を感じられずにはいられない。

 

いろんなお話にも感動したが、この話には泣けました。絶対に社員の欠点を咎めない。長所だけを最大限に伸ばす。長所だけを見つめる。長所だけにこだわる。長所だけを発見する。長所を褒める。長所を活かしきる。徹底した姿勢が貫かれている。

 

中里社長は謙虚である。本当に謙虚な方である。実は私が一番感動したことは、中里社長の謙虚さである。