1.イノベーションとは何か

イノベーションを恐れてはいけません。

イノベーションというものを、どのように捉えたらよいでしょうか。

経済学者のシュンペーターは、「異質なものの結合」と言っています。「別なもの、異質なものの要素が結合されることによって、新しいものが生み出される」、こういうかたちのイノベーションを教えてくれます。

経営学者のピーター・ドラッカーは、

「イノベーションとは、新しいものをつくることだと思っているかもしれないが、そうではない。これまでのやり方は古くなっていく。だから、これまで成果をあげていたやり方を捨てなければいけなくなる。何かを一つだけ捨てるのではなく、これまでのやり方、システムそのものを、どさっと捨ててしまわなくてはいけない。この体系的な廃棄こそがイノベーションである」と、イノベーションの本質をついています。

どちらの捉え方にも、面白い面があると思います。

イノベーションとしては、普通は、「新しい組み合わせによって新規のものを生みだす」という面が大きいでしょう。

例えば、水素と酸素が結合すると水ができます。水素も酸素も気体なのに、結合してできるものは、水という液体です。まったく新しいものができるのです。

さらに、その水は、熱を加えられると、気化して蒸気になります。そうすると、今度は、タービンを回したり、汽車や船を走らせたりする力になります。

酸素と水素が、結合によって、全く違うものに変わり、新しい働きをするようになるわけです。

このように、新しい組み合わせによって新規のものを生み出していく力もイノベーションですし、また、「かつては成果を生んだが、すでに制度疲労を起こしていて、成果を生めなくなっているものを、体系的に廃棄していくこと自体が、新規のものを生み出す」というかたちでのイノベーションもあります。

 

2.イノベーションは痛みを伴う

イノベーションには非常に難しい面があります。これまで自分たちにとって大事であったものや、成功の要因であったもの、うまくいっていたものを、自ら捨てていくことがあるため、自分の内部に敵と味方が住んでいるようなかたちになるのです。

会社は、経営方針を変えたり、未来を見据えて、儲かっていた部門を捨て、新規事業に乗り出したり、撤退したりします。非常に難しい局面で足踏みをしたり、経営というものは、なかなか一筋縄でいくものではありません。しかし、そのときどきの経営規模に応じて、経済効果など、様々なことを考えながら、そのつどイノベーションを行っています。

「一定の限界が出た」と思ったら、「それをどう突破するか」ということを常に考える必要があります。

ただ、イノベーションには痛みが伴います。イノベーションには、これまで成果をあげていたものを捨てていく面があるので、そういう意味で、どうしても痛みを伴いますが、発展を続けたければ、どこかで、そういう外科手術をしなければいけないのです。

捨てる勇気が必要になってきます。経営者にとって、人の問題が一番難しいイノベーションではないでしょうか。そして、経営者自身のイノベーションを、真っ先に問うところから、本当の経営がスタートします。