1.新規許可に『公示運賃』を適用する理由

運賃料金は、トラック法が施行された平成2年12月から認可制から「事前届出制」に変りました。当時の認可運賃(平成2年11月9日付)として公表されていた運賃料金が、横すべりに「基準となる運賃料金」となり、公示運賃として、平成6年2月に上限拡大され、平成9年3月に下限が拡大され、さらに11年3月に新たな上限・下限が拡大されました。当時の基準からみれば、上限20%・下限20%に拡大され、現在に至っています。

届出運賃制は、従来の認可運賃制と異なり、事業者の自主性を尊重し、創意工夫をこらした独自のものを作成して、届出をすれば、その運送会社の運賃料金になりますが、適正利益を見込んだ「原価計算書」などを添付して提出する必要があります。又、変更命令発動の可能性もあり、中小零細企業では、時間的な問題も含め、きちんとした原価計算書を作成することが現実問題として困難です。そこで、公示運賃を適用して運賃を収受しているのが現状です。公示運賃を適用すれば、「原価計算書等」を省略できます。もちろん、原価計算書を添付して、独自の運賃料金表を届出してもOKですが、独自の運賃料金表の設定届をするには、2年間の実績が必要です。変更するには、3年間の実績が必要です。実績のない新規許可業者はできません。

そこで、新規参入業者が新規許可の申請をして、許可後に届出る「運賃料金」は、公示運賃しかありません。もちろん、添付書類の『運輸収入の算出基礎』も公示運賃で計算します。各々の運輸局管内で公表されている運賃料金を適用して書類を作成していくことになります。例えば、特殊なケースとして『清掃に関する運賃料金』があります。これは、東京都及び(財)東京都環境整備公社にかかる「廃掃法」に規定する廃棄物のうち、ごみ、粗大ごみ等を運搬する場合のみに適用します。ゆえに近畿圏では適用できません。最近は、建設業者、産廃業者、一廃業者の新規申請も増えてきていますが、もし、一廃業者の方から、新規許可の依頼があれば、現時点で公示されている近畿管内の運賃料金を適用するしかありません。近畿には、『清掃に関する運賃料金』がありませんので、貸切運賃の時間制か距離制しかありません。それで近畿運輸局もOKなのです。

又、エリア内での『積合せ』は平成2年12月以降可能であり、現実論は一般貨物であっても積合せが大半です。そういう場合は『小口扱運賃料金(積合せ運賃)』を適用されて、実例を創っていくしかないでしょう。つまり、近畿運局の考え方は、一番ベイシックな公示運賃が『貸切運賃』と認識されていますし、事業計画に添付する『事業収支見積書』は、あくまでも見積書の概念を超えていないのです。

規制緩和との兼ね合いから、事務処理の簡素化がベイスにあって、現実とマッチしないことは充分に理解されていますし、行政の方もジレンマを感じておられます。今後の展開として、新たな公示運賃が公表されるまでには、時間がかかりそうです。なぜならば、いわゆる信頼性のある大手業者の公正な原価計算された『運賃料金』の届出を待って、何度も検討され、公示運賃として採用されるからです。

現実問題として、新規許可に公示運賃を適用することの議論や整合性のとれないことは多々あります。現時点での行政の運用のしかたが、流動的でもあり、変遷していくなかで、認識していくしかないでしょう。

 

2.どの『公示運賃』を適用するか

公示運賃とは、たとえば、「一般貨物自動車運送事業貸切運賃料金」という、平成11年3月26日付の近運貨振公示第2号・近運貨適公示第1号通達に基づき、公示された範囲内の運賃率表があります。

貨物の「運賃料金」は、平成15年に認可運賃から自由になり、届出になりました。したがって、会社独自の運賃料金を作成する必要があります。しかし、「平成11年3月26日近運振公示第2号」を使って、運賃料金設定届出書に添付して届出してもかまいません。

平成11年3月から改正されていないし、認可運賃は平成15年に廃止されたので、この「平成11年3月26日近運振公示第2号」が最終版です。

新規許可で、公示運賃として採用できるのは、冒頭に書きました、平成2年、6年、11年の、どの『タリフ』を届出してもかまいません。平成2年のタリフで事業計画を作成したら、許可後にその『タリフ』を届出します。この一点をしっかりおさえてから、運賃計算の方法をマスターなさって下さい。

なお、どのタリフにもある、『基準運賃』は公示運賃の上限値の数字です。いわゆる早見表などに載っている『普通運賃』の上限値・下限値とは、意味合いが全く違います。この早見表は、本来、運送業者が実務上利用するためにあり、公示運賃の『基準運賃』の上下10%の範囲で、顧客に応じて運賃を収受してもいいですよという、現実の商売の中で幅をもたせた『普通運賃』の上下限値です。あくまでも、公示運賃の『基準運賃』は上限値なのです。

もっとも、この『普通運賃』の上限値を適用して、収支見積書を作成しても、間違いではありませんが、あまり好ましくないと思います。大事なことは、『公示運賃』の意味も理解せずに、『穴埋式』に運賃計算をし、書類作成をすることに大きな誤りがあります。

運賃計算のみならず、運送業の許認可は、周辺知識も含め、行政書士として恥ずかしくない書類の作成を心がけて下さい。