「私は、世の中から貧乏をなくし、人々を幸福にしたいんや。そのために、蛇口をひねるといくらでも出てくる水道水のように、安くて良い製品をぎょうさん作ろうや。そしたら誰もが豊かな生活をおくれると思うんや。これを松下電器の使命として実行していこうやないか!」

 松下幸之助さんが37歳の時、創業記念式典に集まった数百人の前で語った内容です。1932年のことです。

 世の中をよくしていこうとする、ものすごい企業理念です。大きな夢と固い決意を聞いた社員たちは、熱く心をゆさぶられました。

 その後、社員たちと力を合わせ、松下電器はすごい勢いで発展していきます。

 しかし、松下さんみたいな立派な経営者でも、社長をやめるように言われたことがあります。

 彼が51歳の時です。日本がアメリカとの戦争に負けた時に、アメリカの役人に社長をやめるように言われてしまったのです。

「私らの社長は松下さんしかおらん!」
「そうや!社長にやめてほしくない人に名前を書いてもらって、みんな社長を必要としていることを伝えよう!」

 社員たちが松下幸之助さんを守るために集めた署名の数は1万5千人にもなりました。

「信じられない!日本にはこんなにも尊敬され、信頼された社長がいるのか!」

 アメリカの役人は幸之助さんの偉大さに驚き、社長を続けるように変更してしまいました。