工事契約に関する会計基準などの知識をベースに、経営規模等評価申請(以下、経審という)を役所に提出しますが、事前にきちんとした中長期的な対策を立て、実践し、経審を進めていきます。

ゆえに、戦略的経営と会計が重要になってきます。つまり、財務内容が経審の点数に影響するからです。戦略的な対策で、経営規模評価が違ってきます。ここに、戦略的な経営センスと会計知識等がなければ、経審を適格に進めることができません。顧客の社長、税理士、行政書士とのコミュニケーションが必要になり、経営、会計、法律、許認可の総合判断で、経営戦略を練ります。そこで、経験事例を簡単に述べます。

A社は、売上高を工事完成基準から工事進行基準に切替え、経審の点数がアップし、多額な消費税が還付されました。親会社との連結決算で収益の認識基準を変え、工事進行基準を適用し、原価意識に目覚めた事例です。B社は会社分割を活用して、特殊経審のメリットを活かし、分割承継法人が見事に再生しました。特殊経審とは、事業譲渡、合併、分割が伴う経審のことです。特にこの事案は、戦略的経営がなくては進めることができませんが、再生後の課題が重要になります。つまり、内部統制や原価管理のさらなる向上です。C社は、社長が積算名人で原価意識が高く、零細企業であっても簡易な個別原価計算を実践し、多額な利益を計上しています。これらの事案は、戦略的経営と経審の重要さを物語っています。経審制度と会計処理の関連性も示唆してくれます。

また、これらに共通する論点を、経営と会計から捉えてみました。

経営的には、現代マネジメントの課題は「人の問題」に尽きるでしょう。その解決策として、人はコストではなく資源であるという人材マネジメント(HRM)等の研修が盛んに行われています。その中でも、最大の効果が期待できるのが、経営者や経営担当者自身の変革です。マンイド・セットが重要になります。トップが変われば、会社は変わります。経営者自身が人格的にも向上されることが最高のマネジメントです。それを向上させる意味でも、「ダム経営」が役立ちます。ダム経営とは、お金のダム、人材のダム、人格のダムです。日々の実践行為として「ダム経営」を継続することで、良き経営者が育ちます。人格優れた経営者は、智慧を絞り、利益をあげ、多額の納税をされています。智慧は時間を生かし、人を生かします。経営とは、智慧と汗の結晶です。経営者の自己変革があって初めて、戦略的経営と会計が蘇り、魂の入った経営となり、企業の繁栄発展に繋がります。

会計的には、原価意識と原価管理に収斂されます。個別原価計算がポイントになり、完成基準にも進行基準にも重要であり、中小建設業における原価意識のさらなる向上を促すことができます。特に工事進行基準においては、管理会計も必要になり、財務会計と両方の目的が達成できる簡易なシステムの構築が求められます。

なぜならば、平成20年の法人税法改正で、工事進行基準における工事額の強制適用が50億円以上から10億円以上になり、また親会社との連結決算や国際会計基準の影響で、中小企業にも適用率が年々増加してきたからです。しかし、新基準には「工事原価は、原価計算基準に基づいて算定されるべきである(新基準6(6))」としか規定がなく、運用指針には原価比例法等の詳細は規定されていますが、原価計算基準の詳細な記述がありません。したがって原価計算基準は「昭和37年11月8日大蔵省企業会計審議会の中間報告」と、慣行的に成熟したものを利用して原価見積りを適用するしかありません。一方、国際会計基準には、工事原価に含める内容について比較的詳細な規定があり、新基準との比較検討も必要です。また、工事進行基準を適用する場合に、日本公認会計士協会の「建設業において工事進行基準を適用している場合の監査上の留意事項(平成20年9月2日)」も参考になります。