仮に甲さんとします。甲さんが勤務していたA建設会社が倒産しました。

 そこで、甲さんは独立を決意し、建設会社を設立し建設業の許可申請を進めようとしています。しかし、甲さんは倒産したA建設会社に専任技術者に就任していましたが、A建設会社の代表者と連絡が取れません。したがって、A建設会社の代表者名で廃業届を提出することができません。また、A建設会社が弁護士を通じて破産申請を進めようとしている段階で、破産管財人も決定していません。

 甲さんは、どのように自社の許可申請を進めていけば良いでしょうか。

 一般的には、専任技術者のダブリが発生しますので、A社の廃業届が求められ、甲さんの許可申請を進めることになりますが、A社の廃業届をスムーズに進めることができません。

 このようなケースはよくあります。こういう場合は、必ず管轄の役所に事前相談します。証明会社の会社が倒産したり、代表者が行方不明の場合は、事前相談から入ります。事前相談で、詳細を説明し対処策を役所の方に相談します。

 甲さんにとっては、一日も早く許可申請を進めたいと思いますが、一定の時間を要することになりスムーズに運びません。出来る限り早く甲さんの会社の許可申請を進めていく方法と、役所の職権で倒産したA社の廃業を認めてもらう方法など、その他にも対策があるかも知れませんが、現時点で想定できるケースを考えてみたいと思います。

 

1.出来る限り早く進めたい場合

 役所は、職権で倒産したA社の廃業を認めることには、あまり積極的ではありません。出来る限り、事務ベースで専任技術者のタブリを消す方法を優先します。通常と同じような回答を先に示されます。下記のような三つの方法がありますが、いずれにせよ、通常の場合と同じで、事務ベース優先の考え方です。

⑴ 廃業届の委任状をもらうケース

 甲さんは、代表者と直接連絡は取れませんが、破産申請を進めている担当弁護士が分かるなら、許可申請を依頼されている行政書士から弁護士に連絡を取ってもらい、A社の代表者に「廃業届」の意思があり、委任状を入手できるなら、この方法で処理を進めることができます。いずれにしても、代表者からの委任状が必要になります。通常の場合と全く同じです。非常に疑問を感じます。

⑵ A社の代表者本人が廃業届を申請する方法

 全く通常の場合と同しで、参考になりません。

⑶ A社の役員が「廃業届」を提出する場合

 代表者じゃなくても、A社の役員なら委任状なしで「廃業届」を提出できます。この方法なら少しはスムーズにいきそうですが、役員と連絡とれない場合は、全く前に進みません。

 甲さんは、A社の役員ではなかったので、甲さんの名前では「廃業届」は申請できません。もっとも、担当弁護士を通じて、代表者から委任状を入手できるなら、廃業届は可能になります。当然と言えば当然ですが、通常と全く同じです。

 

2、役所が職権で廃業を認める場合

 例えば、A建設会社の代表者や役員とも連絡がとれず、また、法的な破産手続等がない場合には、お手上げ状態になり、なかなかスムーズに甲さんの許可申請を進めることができません。こういう場合は、役所の職権でA建設会社の廃業を認めてもらうことになりますが、時間がかかります。

 役所側では、A社の倒産を確実に把握しないことには、A社の廃業を認めてもらえないでしょう。役所側は現地調査をしたり、客観的な事実認定できるA社の資料入手なりをされて、慎重に事実確認をされていきます。また、役所側はA社に不利益処分にならないようにも配慮されますので、自ずから時間を要します。

 最終的にA社の倒産なりが認められれば、職権でA社の廃業を進め、甲さんの許可申請が受理されると思いますが、時間がかかり過ぎます。

 

3.その他

 上記の二つ以外に、甲さんの許可申請を進めてくれる場合もあると考えますが、余程、確実な事実認定資料や、倒産等の客観的に判断できる資料がなければ、難しいのではないでしょうか。これが現時点の役所の対応ですが、いつも疑問を感じます。

 役所側の対応も理解できますが、もう少し簡便な方法で、甲さんの許可申請を進める方法を考えていただきたいものです。

 例えば、今回のケースなら、A社が倒産し、甲さんが会社を設立し、その会社の代表者に就任し、専任技術者に専任されることは、はっきりとしています。これだけでも充分な事実認定になると考えます。この場合に、甲さんからの上申書か何かで、甲さんの会社の許可申請を優先されて、許可処理を進めてほしいと思います。

 この場合のA社の不利益問題と、甲さんの会社の許可申請とは別テーブルで検討すべき問題だと考えます。役所側は、あまりにもダブリ問題を事務ベースで捉え過ぎだと考えます。技術者等のタブリは事務ベースの問題です。あくまで事務ベースの問題です。ダブリはタブリで処理しておいて、甲さんの許可を優先すべきだと思います。

 もう少し、役所側の柔軟な対応を強く望みますし、こういったケースの場合の明確な指針を出してほしいものです。そうすれば、建設業の許認可行政がもっとスムーズに進むのではないでしょうか。