⑴ 概要
いつでもどこでも、今すぐ使えるお金がいくらありますか。5,000万円ですか、1億円ですか。それとも10億円ですか。建設業は余剰金が命ですから、帳面上の利益と違い、現実に運転資金に廻せるお金がいくらあるかを計算するのが、営業キャッシュ・フローです。その金額の大きさで評点を決めます。当然に多いほど良いことになります。
キャッシュは現金。フローは流れ。現金の流れがキャシュ・フローです。現金創出能力、資金収支が健全であるかどうかを判断する指標です。キャッシュ・フローの前に「営業」が付いていますので、営業活動によるキャッシュ・フローを求めています。つまり、本業の建設業で稼いだ今すぐ使えるお金の話です。投資活動や財務活動から得たキャッシュ・フローではありません。
よく「勘定合って、銭足らず」という言葉がありますが、黒字決算であるのに資金繰りに詰まって倒産する会社があります。これをきちんと説明出来る表が、キャッシュ・フロー計算書です。利益が計上されていても、売掛債権が増大して、会社に入金がなく資金不足となって倒産する原因が、この計算書で明確になります。バブルが崩壊して、大手の建設業者や不動産業者が倒産した共通原因は、見せかけの売掛債権(回収不能の不良債権)が多額に計上されていて、利害関係人の判断を狂わせたことがあったからです。この反省から、バブル崩壊後にキャッシュ・フロー計算書が重視されるようになりました。
「絶対的力量指標」として掲げている1つ目の指標です。
(算式は) 営業キャッシュ・フロー(2期平均)/1億円=営業キャッシュ・フローです。 |
上限値15億円(最も良い)で、下限値マイナス10億円(最も悪い)です。寄与度は5.7%です。分母が1億円ですので、1億円が基準になります。最高が15億円です。営業キャッシュ・フローが15億円あれば最高です。15億円の余剰金を創る会社になりましょう。いつでもどこでも今すぐ使えるお金が15億円あれば、営業キャッシュ・フローは満点です。
⑵ キャッシュ・フロー計算書の意味(一般論)
会社の利益は、発生主義会計で計算されます。発生主義会計とは、例えば、工事が完了して請求書を出した時点で、売上にあげ、代金の入金に関係なく収益として認識することです。現金が入金された時点で収益を認識するのが「現金主義会計」です。一番確実ですね。キャッシュ・フロー計算書は、発生主義で作成された損益計算を、現金主義会計に置き換えて測定します。つまり、現金の流れです。今すぐ使えるお金の値が分かります。
そこで一番のポイントは、対象となる資金の範囲です。現金及び現金同等物に限定されています。このうち現金同等物は、容易に換金することのできる短期投資で、価格変動のリスクが少ないものとされています。
現金とは、手許現金のほか、普通預金、当座預金、通知預金をいい、預金者がいつでも自由に引き出せる預金に限定されています。だから通常の積立預金や定期預金は含めません。
また「現金同等物」とは、3ヶ月以内に満期日あるいは償還日が到来する短期的投資である定期預金、譲渡性預金、コマーシャルペーパー、売戻条件付の公社債信託投資などに限定されています。
コマーシャルペーパーとは、優良企業が機関投資家などから無担保の資金調達を行うための手段として発行する約束手形です。信用力が高く換金性もあるので、平成5年4月に施行された証券取引法(現在は金融商品取引法)の規定により有価証券に含まれることになりました。
受取手形や市場性のある株式は、換金可能であっても含まれないことになっています。受取手形は、不渡りになるおそれがあるとともに、満期日が3ヶ月を超える場合があり、また株式は、価格変動のリスクが高いためと考えられます。
この資金収支(資金増減)の計算は、先に少し述べましたが、営業活動、投資活動、財務活動の3つに区分して報告されます。経営分析では、営業活動の資金増減だけを採用しています。ゆえに「営業キャッシュ・フロー」と言います。この算出方法は、直接法と間接法がありますが、分析では、間接法を採用しています。
⑶ 営業キャッシュ・フローの算出方法
それでは、経営分析機関での営業キャッシュ・フローの計算方法です。この合計額を1億円で割った数字が、営業キャッシュ・フローの点数になります。
経営分析を申請する際に、新規申請の場合は、直前3期分の財務諸表を提出します。売掛債権などの増減額を算出するために、3期前の数字が必要になるからです。
営業キャッシュ・フローの対象となる項目は、全部で8つあります。
①経常利益、②減価償却費、③貸倒引当金の増減額、④法人税等、⑤売掛債権増減額、⑥仕入債務増減額、⑦棚卸資産増減額、⑧未成工事受入金増減額です。それぞれの項目について、増加しているか、減少しているかを見ていきます。詳細は省略しますが、次の各項目の内容で説明いたします。
⑷ 各項目の内容
① 経常利益
経常利益が多いことは、それだけ利益が獲得され、資金の増加要因になるわけですから、当然に評点アップにつながります。
② 減価償却費
減価償却費は、現金が支出されない費用ですから、それだけ会社内にプールされたことになるので、評点アップになります。
③ 貸倒引当金の増減額
これも現金が支出されない費用ですから、それだけ会内にプールされたことになるので、評点アップになります。引当金のうち、経営分析では貸倒引当金に限定されています。
④ 法人税、住民税及び事業税
税金は、いずれも現金で支払いますので、算出税額がそのままマイナス評点となります。還付税額がある場合は、プラス評点になります。ただし、これは会計処理方法により異なります。
⑤ 売掛債権増減額
売掛債権が増加していることは、資金が入ってきていないことを示すので、評点が下がります。反対に減少している場合は、その差額だけ資金が増えていることになるので、評点が上がります。
⑥ 仕入債務増減額
仕入債務が減少していることは、その差額だけ資金が流出したことを示すので、評点が下がります。反対に増加している場合は、支払いが抑制されて資金が会社内に残っていることになるので、評点は上がります。
⑦ 棚卸資産増減額
棚卸資産が増加していることは、それだけ資金が支払いに充てられ流出したことになるので、評点が下がります。反対に減少していれば、評点はアップします。
⑧ 未成工事受入金増減額
これは工事代金を前受けしたことですから、増加していることはその分だけ資金が増加したことになり、評点は上がります。反対に減少すれば、評点は下がります。
この営業キャッシュ・フローは、今すぐ使えるお金のことですから、まさにダム経営そのものです。最高評点が15億円ですので、ダム経営の実践に尽きます。