得意先のK社長のお話です。

 K社長さんには、30年以上もお世話になっていますので、彼の性格を多少なりとも知っているつもりです。会うたびにおっしゃる言葉は、「俺はついている。俺は運のよい男だ」と。

 悪いことや嫌なことがあっても、「いやぁ、俺はついている。俺は運のよい男だ」と、おっしゃいます。悪いことが起こった時に「俺はついている。俺は運のよい男だ」と、なかなか言えるものではありません。おそらく、K社長に降りかかった悪い出来事でも、良い方に考え、「俺はついている。俺は運のよい男だ」と言えるのだと思います。大したものです。

 ある時、K社長に尋ねました。

「どうして、いつも俺はついている。俺は運のよい男だと言われるのですか」

「いつも運がよいと思っていると、何が起こっても驚かないし、自分に与えられた試練だと受け止めて、俺はついている、俺は運のよい男だと口くせのようにしています」

「素晴らしいですね。私も見習います」

「とんでもありません。30年前に初めて先生にお会いした時に、潜在意識の話を2時間以上も私にしてくださったのは先生ですよ」

「そうでしたか」。言った本人は、全く覚えていません。

「直接、運のいい話ではありませんでしたが、その潜在意識の話を聴いてから、何でもいいように思うことにしたのです。悪いことがあっても、いい方向にもっていこうと決心したわけです。マイナス的な想いが出てきた時は、いつもそれを打ち消して、明るいことばかりを考えるように努力しました。しかし、邪魔くさいことが嫌いな自分は、もっと簡単に良いことを思うことができないかと、私なりに夜も寝ずに昼寝して考えた末、俺はついている、俺は運のよい男だとなったわけですよ」

「それにしても、よい言葉ですね。俺はついている、俺は運のよい男だ。私も今日から真似しても良いですか」

「その変わり言っておきますが、私のせいで先生に悪いことが起きても、私の責任じゃありませんからね。その時にも、俺はついている、俺は運のよい男だと言いますし、先生も同じように言ってください。それを約束してくださるなら、どんどん使ってください」

 私は一瞬、K社長の顔を伺うようにして、笑いながら答えました。

「俺はついている、俺は運のよい男だ」

 K社長も笑いながら言いました。

「俺はついている、俺は運のよい男だ」

 二人して大笑いしながら、合唱しました。

「俺はついている、俺は運のよい男だ」