社長にとって一番難しい判断は何かと言うと、「投資と経費の区別をつけること」になります。この区別はなかなかつかないので、難しいところです。「これは投資に当たるのか、経費に当たるのか」という判断は、そんなに簡単につきませんし、ある程度の実績をあげている会社の社長であっても、つかない場合があります。
例えば、人件費です。 よく「給料は固定費だ」と言われます。それは「経費」ということであり、「経費が増える」ということは、「利益が減る」ということです。そうすると、人を採用できなくなります。要するに、あまり人を増やすと利益が減るわけです。方程式から見てそうなります。そのように「人を入れることは、投資に当たるか、経費に当たるか」という判定は難しいです。
あるいは、工場を建てる予定がある場合でも、一般的には「投資」ですが、「本当の投資に当たるのか」の判断は難しいところがあります。
それから、海外に進出することについても、「本来戦略として必要だから、十年、赤字覚悟で、投資としてやっていくのか。単なる思いつきでやって、会社を潰しかねない行為なのか」は、判断が非常に難しい面があります。
投資と経費の区別は、そう簡単につきませんし、これは従業員にできると思ってはいけません。これについては、「トップ一人の判断にかかっている」と思ってください。それが分かるのはトップしかいません。部長以下の従業員は、投資なのか経費なのか分かりません。これが分かったら、社長ができます。
億単位以上のもの、つまり数億、あるいは十億以上のもので、それが投資か経費かを、ずばり判断できるのは社長だけです。社長以外にはできません。
それには責任が伴うので、八卦見にでもなりたいぐらいの気分でしょう。「これについては、どうなるんだ。これで、いいのか」「何人なら雇っていいのか」「工場は幾つなら建てていいのか」「新商品を出していいか」「研究部門をつくっていいか」「海外へ進出していいか」「あの国から輸入するけれど、カントリーリスクはどうだ」など、いろいろなことを考えると、本当に難しいことばかりです。
しかし、最後は、「投資」と「経費」の区別がつくのはトップ一人です。そう思ってください。これは、本当に心を透明にし、神仏に祈るような気持ちで、よく考えて判断してほしいと思います。
自己顕示欲や自我我欲が混じっていると、経費であって投資に見えてくるでしょう。
また、視野が狭すぎると、必要な投資でも「赤字」に見えて、やめてしまうことがあり、会社の未来を危うくすることもあります。しなければいけない投資をせずにいれば、目先の利益はたくさん出るため、投資をストップして利益だけを求め、将来的に会社を潰してしまう人もいます。
必要とあらば、大胆に投資していかなければいけない時期もあります。つまり、利益を減らしてでも投資しなければいけないときがあるわけです。しかし、利益を守らなければいけない時期もあります。
やはり、このへんのところは、変幻自在でなければなりません。時代環境を読みながら、「勝負に出るか、出ないか」を、本当に毎日、参禅するつもりで考えていただきたいところです。
ただ、「投資なのか経費なのか、どう考えても分からない」という場合には、使ったお金を回収する率が一番高いものを選んでください。
「これは投資として必要なものだ」と断定できるならば、十年もの、二十年ものでも構いません。やるべきものはやらなければいけません。しかし、どうしても分からない時は、比較的早いうちに、使ったお金が回収できるほうに投資をされた方が良いと思います。これも、投資と経費を区別する判断基準に一つになります。