ある家庭内のお話です。
父親は、自分のことを素晴らしい人間だと思っているようなのですが、お酒を飲んでは、どなり散らし、他の人の批判ばかりしています。娘の私から見れば、「父は、不幸感覚が強い上に、自己の客観視ができていない」と思えます。こういう父に対して、どのように接すればよいのでしょうか。
よくある話ですが、父親の姿が全部見えていないように感じます。何十年も実社会の厳しさを経験した男性の気持ちが、たぶん理解できないのでしょう。それは、男性の社会というものをよく知らないからだと思います。
父親が、なぜそういう振る舞いに出るのか、ある程度の社会経験を持った男性であれば、たぶん、お父さんの気持ちが理解できると考えます。
お父さんには、かなりの挫折体験があると察することができます。もともとプライドの高い人なのでしょうが、そのプライドがそうとう傷ついています。間違いありません。
お父さんは、仕事で、不本意な扱いを受けたり、不本意な結果に終わったりしたことが、おそらく何度かあるはずです。
プライドがあり、自信もある人が、挫折などによってプライドを傷つけられた場合、一般的な症状として、「その傷口を埋めないと、どうしても気が済まない」ということがあります。しかも、その傷口を他の人には気づかれたくないのです。
そうすると、現れ方は幾つかありますが、最も典型的なのは、「他の人の悪口を言う」「環境を批判する」など、攻撃的になることです。それによって、プライドを守ろうとするのです。これが最も多いパターンです。他の批判することで自分の傷口をカバーしようと思ってしまうわけです。
本当は自分の問題だと知ってはいても、それに目を向けたくない、あるいは、それを他人から指摘されたくないのです。そうすると、批判癖(へき)が出てくるようになります。
お父さんがお酒を飲むのは、「自分をごまかしたい」という気持ちが強いからです。酒飲みというのは、たいてい、理性を麻痺(まひ)させたいのであり、「現実から逃げたい」という気持ちが強いことだけは、間違いありません。
「現実から逃げたい。現実を直視したくない」ということです。その現実とは、おそらく、惨めな自己像だと思います。それから逃れたくて、お酒の世界に入るのです。
そういう人に自分の傷口を客観視させるのは、必ずしもよいことではありません。逆に、よい部分をほめるほうが効果的だと思います。
プライドの傷ついた男性は、手負いのライオンのようなところがあり、極めて危険なので、その部分をどこかでカバーしてあげたほうがよいのです。
あとは、そっとしておいてあげることです。批判がましいことは口にせず、何を言われても、「やがて台風は過ぎ去っていくのだ」と思って、受け流していくほうがよいと思います。
それは、ごく一般的な症状です。しかも、そういう人のなかには、優秀な人も多いのです。何も感じないような人は、あまり大したことはありません。
お酒を飲んで暴れたり、他の人の悪口を言ったりして、一時的には、人柄がものすごく悪いように見えたとしても、本来はかなり優秀な人です。そういう人だからこそ、苦しみ、悶えるのです。
ただ、その苦しみや悔しさを、よい方向に持っていければよいのですが、悪いほうに向かうと、自暴自棄の人生になってしまいます。そうならないためには、周りの人たちによる配慮が大事です。
このときに大切なのは愛の強さです。お父さんを信じることです。お父さんは、ほんとうは素晴らしいはずです。そう思ってあげなければいけません。
男性は社会経験によって変わっていくことがかなりありますが、女性の場合は、家庭環境などによって二十歳までに形成されたものを、そのあとの経験や教育によって変えていくのは、なかなか大変です。
そのように、女性は親の影響を強く受けて育つので、「娘は非常に立派だが、親は全然だめ」ということは、あまりありません。あなたが素晴らしい女性なのであれば、あなたの両親もそうなのだろうと推定できます。
お父さんの素晴らしい部分を、もっとよく見てあげてください。