悲しみや苦しみについて、「それは地獄的な思いであり、天国的なものではない」という考えかたもあります。しかし、もう一つの側面として、悲しみや苦しみには、「人格を練る」という効用もあります。

 深い悲しみを味わったことのある人には、次の二つの点において、大いなるプラスが生じてきます。

一つは、「謙虚さを知る」ということです。鼻っ柱を折られ、プライドが傷ついたとき、その悲しみを通して、謙虚さというものを真に学ぶことができます。もう一つは、「他の人に対して優しくなる」ということです。

 相手の気持ちが実感できないと、その人に対する優しさが、なかなか出てこないものです。

 特に、環境に恵まれ、順調に生きてきた人は、他の人に対して厳しくなりがちです。また、言葉も荒くなります。相手に対し、「なぜこんなことができないのか」などと言うこともあります。

 しかし、深い悲しみを実体験すると、人を許す範囲が広がります。「人が悲しんでいる姿とは、どのようなものか」ということが、切々と胸に迫るように分かるからです。それは、深い悲しみを味わったことがある人だけの実感でしょう。

 悲しみを経験した人には、独特の優しさがあります。それは一つの光です。「悲しみの底を打ち破ったとき、光が出てくる」という言葉もありますが、それは、このことを言っているのだと思います。

 人と接するときの優しい眼差しや、「相手の成長を待ってあげられる」という気持ちは、大きな悲しみを通過した人に特有のものです。

 人を許せないでいる人は、「自分は大きな悲しみや挫折を経験したことがないのではないか」と思う必要があるでしょう。