取引相場のない株式とは、「上場株式」及び「気配相場等のある株式」以外の株式をいいます。簡単に「自社株(非上場株式)」と表現します。
自社株の評価方法には、「類似業種比準価額方式」と「純資産価額方式」があります。あと、「類似業種比準価額方式」と「純資産価額方式」の「併用方式」があり、最後に「配当還元方式」がありますが、ここでは、どの評価方式を採用して、自社株の評価をするのか、評価方法の流れを説明いたします。この流れを理解せずに自社株の評価ができません。それぞれの評価方式については、別の機会にお話します。
それでは、順番に説明していきます。
相続や贈与などで株式を取得した株主が、その株式を発行した会社の経営支配力を持っている同族株主等か、それ以外の株主かの区分により、それぞれ原則的評価方式(類似業種比準価額方式、純資産価額方式、併用方式)、または特例的評価方式(配当還元方式)で評価します。なぜなら、同じ自社株であっても、会社への支配力があるかないかで、その株式の価値は大きく異なるからです。
まずは、根拠法令から進めていきます。
1.根拠法令
根拠法令は、まず相続税法の第22条「評価の原則」があります。
(評価の原則) 第二十二条 この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。 |
この相続税22条の説明は省略いたしますが、この条文をベイスに、個々の財産については「財産評価基本通達」が根拠法令等に該当します。
「財産評価基本通達」の「第8章その他の財産」に関する第1節に「株式及び出資」がそれに該当します。「評価単位168」から「企業組合等の出資の評価196」まで詳細に書かれていますが、取引相場のない株式(自社株)の評価に関係する根拠法令等は、次のとおりです。
「取引相場のない株式の評価上の区分は178」に、「取引相場のない株式の評価の原則は179」に、「類似業種比準価額は180」に、「準資産価額は185」に、「同族株主以外の株主等が取得した株式は188」に、「同族株主以外の株主等が取得した株式の評価は188-2」に、「特定の評価会社の株式は189~189-6」に記載されています。
自社株の評価をする場合、評価方法の流れがポイントになります。
自社株は、「受け取った人が誰か」「特定の会社等に該当するか」「会社の規模」の3つの要素で評価方法が変りますので、評価方法の流れを理解されてから進めてください。
2.評価方法の流れ
1番目は、株主の判定です。同族株主等に該当するか、同族株主等以外に該当するか、判定します。
2番目は、特定評価会社に該当しないか、特定評価会社に該当するか、判定します。
3番目は、会社規模の判定です。大会社に該当するか、中会社の大に該当するか、中会社の中に該当するか、中会社の小に該当するか、小会社に該当するかを判定します。
4番目は、評価方法の決定です。「類似業種比準価額方式」か、「純資産価額方式」か、左記の「併用方式」か、「配当還元方式」を決定します。
それでは、順番に説明していきます。
3.株主の判定
株主の判定する際のポイントは、自社株を取得した人が、「会社への支配力がある同族株主等」か、「会社への支配力がない少数株主」かを判定します。
同じ自社株であっても、会社への支配力があるかないかで、その株式の価値は大きく異なります。支配力がある同族株主等にとっては、会社を自由に動かすことができ有益な資産になります。一方、支配力がない少数株主は、株式を持っていたとしても会社を自由に動かすことはできません。メリットは配当金をもらうことぐらいです。
ゆえに、自社株の評価は、株式を取得した人がその会社への支配力があるかどうかで、評価方法が異なってきます。
具体的には、財産評価基本通達の第1表の1「評価上の株主の判定及び会社規模の明細書」を使って判定していきます。
ポイントは、「筆頭株主グループの議決権割合」と「株式を取得した人が属する株主グループの議決権割合」により、判定していきます。
まず、同族株主がいる会社と、同族株主がいない会社に区別して判断します。
◎ 株主の判定一覧表
1.同族株主がいる会社の場合
筆頭株主グループの議決権割合 |
同族株主がいる会社 |
|||
50%超 |
50%以下 30%以上 |
|||
↓ |
↓ |
↓ |
||
株式を取得した人が属する株主グループの議決権割合 |
50%超 |
50%未満 |
30%超 |
30%未満 |
評価方式 |
原則的 |
特例的 |
原則的 |
特例的 |
支配力 |
ある |
ない |
ある |
ない |
2.同族株主がいない会社の場合
筆頭株主グループの議決権割合 |
同族株主がいない会社 |
|
30%未満 |
||
↓ |
↓ |
|
株式を取得した人が属する株主グループの議決権割合 |
15%以上 |
15%未満 |
評価方式 |
原則的 |
特例的 |
支配力 |
ある |
ない |
上の一覧表を順番に説明していきます。
⑴ 筆頭株主グループの議決権割合が50%を超える同族株主がいる会社の場合
「筆頭株主グループの議決権割合」が50%超える同族株主がいる会社で、「株式を取得した人が属する株主グループの議決権割合」が50%を超える場合は、会社への支配力がある「同族株主等」に該当し、原則的評価方式で評価します。
一方、「株式を取得した人が属する株主グループの議決権割合」が50%未満の場合には、会社への支配力がない「少数株主」に該当し、特例的評価方式で評価します。
原則的評価方式には、「類似業種比準方式」「純資産価額方式」「併用方式」の3つがありますが、会社規模によって、どの方式を採用するか決まります。特例的評価方式は、「配当還元方式」で評価します。
⑵ 筆頭株主グループの議決権割合が50%以下30%以上の同族株主がいる会社の場合
「筆頭株主グループの議決権割合」が50%以下30%以上の同族株主がいる会社で、「株式を取得した人が属する株主グループの議決権割合」が30%を超える場合は、会社への支配力がある「同族株主等」に該当し、原則的評価方式で評価します。
一方、「株式を取得した人が属する株主グループの議決権割合」が30%未満の場合には、会社への支配力がない「少数株主」に該当し、特例的評価方式で評価します。
⑶ 筆頭株主グループの議決権割合が30%未満の同族株主がいない会社の場合
「筆頭株主グループの議決権割合」が30%未満の同族株主がいない会社で、「株式を取得した人が属する株主グループの議決権割合」が15%を超える場合は、会社への支配力がある「同族株主等」に該当し、原則的評価方式で評価します。
一方、「株式を取得した人が属する株主グループの議決権割合」が15%未満の場合には、会社への支配力がない「少数株主」に該当し、特例的評価方式で評価します。
⑷ 注意すべきこと
ここで注意すべきことは、同族株主がいる会社で、次の4つの条件すべてに該当する場合は、たとえ株主区分が同族株主であったとしても、特例的評価方式(配当還元方式)になります。
① その者の株式取得後の議決権割合が5%未満である場合
② 中心的な同族株主がいる会社である場合
③ その者を基準においた場合、その者は「中心的な同族株主」に該当しない場合
④ その者は、課税時期において役員ではない場合(申告期限までに役員とならない)
また、同族株主がいない会社で、次の3つの条件すべてに該当する場合は、たとえ「株式を取得した人が属する株主グループの議決権割合」が15%以上であったとしても、特例的評価方式(配当還元方式)になります。
① その者の株式取得後の議決権割合が5%未満である場合
② 中心的な同族株主がいる会社である場合
③ その者は、課税時期において役員ではない場合(申告期限までに役員とならない)
4.特定会社等に該当するか、該当しないか
1番目の株主判定ができたところで、次に2番目の「特定評価会社」について説明していきます。
特定会社等とは、会社が清算中であるなど会社の営業状況が通常でない会社や、土地や株式を多く保有しており、その資産の保有状況が特殊な会社などです。
これらの会社は、通常の事業活動を行っていないので、類似業種比準価額方式で評価することは適当ではないとされ、原則として純資産価額方式を用いて評価します。
ただし、清算中の会社は、原則として清算後の分配により受け取れる見込みの「清算分配見込額」を評価時点の評価額とします。
ここで、主な特定会社等をあげます。
⑴ 清算中の会社
⑵ 開業前または休業中の会社
⑶ 開業後3年未満の会社
⑷ 比準要素数ゼロの会社
⑸ 土地保有特定会社
⑹ 比準要素数1の会社
⑺ 株式保有特定会社
土地保有特定会社とは、その会社の相続税評価による総資産の価額のうちに相続税評価による土地の価額の占める割合が、会社規模ごとに一定の割合以上である会社をいいます。
土地保有割合は、相続税評価額による「土地等の価額の合計額/総資産の価額の合計額」で算出(%)します。大会社の場合は70%以上、中会社は90%以上、小会社については、業種と総資産価額(帳簿価額)により、70%以上、90%以上、対象外などの詳細な定めがあります。詳しくは、別の機会に説明いたします。
また、比準要素とは、類似業種比準価額方式の計算の基となる「1株当たり配当金額、利益金額、純資産価額」の3つのことを指します。各業種目別に、1株当たりの配当金額、利益金額、純資産価額が比準要素となります。比準要素は「配当金額」、「利益金額」「簿価純資産価額」の3要素で判定され、比準要素数1の会社に該当すると、原則として純資産価額のみの評価となります。 詳しくは、別の機会に説明いたします。
ここでは、特定会社等に該当しない場合と、特定会社等に該当する場合に区分して、それぞれの評価方式を判断しました。
同族株主等の会社が、特定会社等に該当しない場合には、会社の規模で判定します。大会社、中会社(大、中、小)、小会社に区分され、「類似業種比準価額方式」か、「純資産価額方式」か、「併用方式」かのいずれかで評価します。
また、同族株主等の会社が特定会社等に該当する場合には、純資産価額方式で評価します。清算中の会社は、清算分配見込み額による評価になります。
一方、同族株主等以外の会社の場合は、配当還元方式で評価します。
5.会社の規模を判定する
同族株主等の会社が、特定会社等に該当しない場合には、次に会社の規模を判定します。大会社、中会社(大、中、小)、小会社に区分して評価します。具体的には、第1表の2「評価上の株主の判定及び会社規模の明細書(続)」を使って判定していきます。
その結果、大会社は、「類似業種比準価額方式」または「純資産価額方式」で評価します。 中会社(大・中・小)は、「併用方式」または「純資産価額方式」で評価します。小会社は、「純資産価額方式」または「併用方式」で評価します。
それでは、会社規模の判定基準は、「従業員数」「総資産価額」「取引価格金額(売上高)」の3要素を用いて、「大会社」「中会社(大・中・小)」「小会社」の計5つに区分していきます。以下、「従業員数」「総資産価額」「取引価格金額(売上高)」「業種区分」などの注意点を説明いたします。
⑴ 従業員数(従業員の範囲)
従業員の範囲は、次のとおりです。
区分 |
説明 |
従業員数の計算 |
|
従業員 |
継続勤務 従業員 |
課税時期の直前期末以前1年間を通じて、その期間継続して評価会社に勤務していた従業員で、かつ、就業規則等で定められた1週間当たりの労働時間が30時間以上である従業員をいいます。 |
従業員1人を1として計算します。 |
継続勤務 従業員以外 の従業員 |
課税時期の直前期末以前1年間において、評価会社に勤務していた従業員(継続勤務従業員を除きます)をいいます。 |
条業員の1年間の労働時間の合計時間数を1,800時間で除した数値を従業員として計算します。 |
|
従業員に含まれない者 |
社長、理事長、代表取締役、代表執行役、代表理事、清算人、副社長、専務、専務理事、常務、常務理事、その他これらに準ずる職制の地位を有する役員、取締役(指名委員会等設置会社の取締役及び監査等委員である取締役に限ります)、会計参与、監査役並びに監事(法人税法施行令第71条第1項第1号、第2号及び第4号) |
直前期末以前1年間における従業員数で判断します。
正社員は、課税直前の1年間を通じて就業した場合で、1週間で労働時間30時間を超える場合が該当します。パートやアルバイトの場合は、年間の労働時間を1,800時間で割った数値を人数とします。
平取締役や使用人兼務役員の取締役は、従業員数に含めます。
⑵ 総資産価額
直前期末における総資産価額で判断します。
直前期末における各資産の確定決算上の帳簿価額の合計額です。
⑶ 取引金額(売上高)
直前期末以前1年間における取引金額で判断します。
直前期の損益計算書の売上高のことです。
⑷ 業種区分
会社規模区分を判定する場合の業種は、「卸売業」「小売・サービス業」「卸売業、小売・サービス業以外」の3つです。
この業種は、「(別表)日本標準産業分類の分類項目と類似業種比準価額計算上の業種目との対比表(平成29年分)」に基づいて区分します。
この対比表は、左側に「日本標準分類の分類項目」があり、真中に「類似業種比準価額計算上の業種目」があり、右側に「規模区分を判定する場合の業種」が記載されています。
右側の「規模区分を判定する場合の業種」は、上記の「卸売業」「小売・サービス業」「卸売業、小売・サービス業以外」の3つです。
例えば、日本標準分類の分類項目で「農業、林業」「漁業」「製造業」「建設業」「運輸業」などは、規模区分を判定する場合の業種では、「卸売業、小売・サービス業以外」に該当します。「小売・サービス業」は、情報通信業や各種商品小売業が該当します。学術研究、専門・技術サービス業も「小売・サービス業」に該当します。
会社規模の業種が分からない場合は、この「(別表)日本標準産業分類の分類項目と類似業種比準価額計算上の業種目との対比表(平成29年分)」を参照すれば、「卸売業」に該当するのか、「小売・サービス業」に該当するのか、「卸売業、小売・サービス業以外」に該当するのか、すぐに区分できます。
それでは、それぞれ大会社、中会社(大・中・小)、小会社に分けて見ていきましょう。
6.会社規模の判定手順
⑴ 第1次判定
従業員数が70名以上か、70名未満かを判定します。
従業員数が70名以上の場合は、無条件で大会社です。総資産価額や取引金額を考慮する必要はありません。
従業員数が70名未満の場合は、「評価明細書の第1表の2」に記載されている表に当てはめて判定します。一つは「直前期末の総資産価額(帳簿価額)」及び「直前期末以前1年間における従業員数に応ずる区分」です。もう一つは「直前期末以前1年間の取引金額に応ずる区分」です。以下、総資産価額及び従業員数、取引金額と表現します。
総資産価額と取引金額は、「卸売業」「小売・サービス業」「卸売業、小売・サービス業以外」の3つの業種区分ごとに記載されています。
それでは、従業員数が70名未満を判定する第2次判定にいきます。
⑵ 第2次判定
まず「総資産価額及び従業員数に応ずる区分」の箇所で、総資産価額と従業員数を比較して、どちらか低い方を選択します。
総資産価額及び従業員数に応ずる区分 |
||||
総資産価額(帳簿価額) |
従業員数 |
|||
順 番 |
卸売業 |
小売・サービス業 |
卸売業、小売・サービス業以外 |
|
1 |
20億円以上 |
15億円以上 |
15億円以上 |
35人超 |
2 |
4億円以上 20億円未満 |
5億円以上 15億円未満 |
5億円以上 15億円未満 |
35人超 |
3 |
2億円以上 4億円未満 |
2億5千万円以上 5億円未満 |
2億5千万円以上 5億円未満 |
20人超 35人以下 |
4 |
7千万円以上 2億円未満 |
4千万円以上 2億5千万円 未満 |
5千万円以上 2億5千万円 未満 |
5人超 20人以下 |
5 |
7千万円未満 |
4千万円未満 |
5千万円未満 |
5人以下 |
例えば、A社が建設業者としますと、「卸売業、小売・サービス業以外」の業種に該当します。総資産価額が4億円としますと、総資産価額が「2億5,000万円以上5億円未満」の箇所に該当します。従業員数が36人としますと、従業員が「35人超」の箇所に該当します。どりらか低い方になりますから、この場合は、総資産価額が低い方ですから、「2億5,000万円以上5億円未満」の3番目の箇所に該当します。
⑶ 第3次判定
上記の判定結果と取引金額を比較して、どちらか高い方を選択します。
上記の判定でA社は、3番目の総資産価額が「2億5,000万円以上5億円未満」に該当しました。
取引金額に応ずる区分 |
|||||
取引金額 |
会社規模とLの割合(中会社)の区分 |
||||
順 番 |
卸売業 |
小売・サービス業 |
卸売業、小売・サービス業以外 |
||
1 |
30億円以上 |
20億円以上 |
15億円以上 |
大会社 |
|
2 |
7億円以上 30億円未満 |
5億円以上 20億円未満 |
4億円以上 20億円未満 |
0.90 (大) |
中会社 |
3 |
3億5千万円以上 7億円未満 |
2億5千万円以上 5億円未満 |
2億円以上 4億円未満 |
0.75 (中) |
|
4 |
2億円以上 3億5千万円未満 |
6千万円以上 2億5千万円 未満 |
8千万円以上 2億円未満 |
0.60 (小) |
|
5 |
2億円未満 |
6千万円未満 |
8千万円未満 |
小会社 |
次に「取引金額に応ずる区分」の「卸売業、小売・サービス業以外」の業種で、取引金額が5億円としますと、Lの割合が「0.90」の2番目に該当します。
いずれか高い方を選択しますから、2番目のLの割合が「0.90」の2番目の箇所になり、A社は中会社の大と判定できました。
Lの割合とは、類似業種比準方式と純資産価額方式との併用方式を採用する際に、それぞれの株価をどの程度類似業種比準価額を反映させるのかという割合のことをいいます。
中会社のうち規模によってLの割合が「0.9」「0.75」「0.6」の3つに区分され、これを類似業種比準価額に乗じ、残りの割合を純資産価額に乗ずることになります。ただし小会社の場合で併用方式を使う時は、Lの割合は「0.5」となります。
⑷ 自社株の評価方式
自社株の評価方法には、「類似業種比準価額方式」「純資産価額方式」「併用方式」「配当還元方式」があります。
大会社は、「類似業種比準価額方式」または「純資産価額方式」で評価します。
中会社は、「併用方式」または「純資産価額方式」で評価します。
小会社は、「純資産価額方式」または「併用方式」で評価します。
特定会社等に該当する場合は、「純資産価額方式」で評価します。
同族株主等以外に該当する場合は、「配当還元方式」で評価します。
上記の結果、A社は、中会社の大と判定されました。
その結果、中会社(大・中・小)は、「併用方式」または「純資産価額方式」で評価します。どちらか、評価が低い方を選択できます。
これで、会社規模も決まり、どの評価方法を用いて、自社株を評価するにか分かりました。