ここは倉敷の美観地区。漆喰壁の蔵。
土塀や格子といったものに何とも言えない風情がある。
中央に倉敷川が静かに流れ、川畔をぶらりと行く。
息子夫婦と一緒に私たち夫婦は、「高砂橋」の方から歩きだした。



備前焼の店に入る。鉄分を含んだ土が体にいいらしい。
1000年の歴史を我家で楽しむために、湯のみを4つ買って、思い出創りをする。

お昼が過ぎて「手打そば」と書かれたのれんをくぐる。
待たされること30分。やがて「山芋そば」に箸をつける。

横に座る薄化粧の新妻に声をかけようと思うが、臆病な私はビールを注文した。
シラフでは緊張して、とても言葉が出ないので、飲めないお酒を無理して飲みながら、勇気を奮って、彼女に尋ねてみた。

「ところで、あいちゃんの好きな食べ物は?」

「アイスクリームとカキ氷」

一応、義父として、嫁の好みを知る権利があるし、これから長い付き合いをしていく上でも大事なことである。カキ氷の「イチゴ」が好きらしい。



そば屋を出て、今度は反対側の川畔を歩く。
「氷」と書かれた看板を見つけた。待つこと10分。
あいちゃんは、やっぱり「イチゴ」を注文した。
ビールの勢いが残っていたので、ここでも、あいちゃんに質問。

「かき氷の他に好きな食べ物は?」

「ウーン? 何でも食べるけど」

「肉系か魚系?」

「どちらかと言うと、魚」

かなり、新妻の趣味嗜好が分かってきた。

わたくしはマジメに考え、真剣にとらえている。
やはり、旅の収穫は大きい。

普段では感じることができない、ちょっとした言葉やしぐさの中に、あいちゃんの心化粧の香りをほんのりと感じた。