長年、行政書士をやっていますと、残念なことを耳にすることがあります。

 それは得意先の優秀な社員が、お金の使い込みで会社を辞めさせられるという事件です。それも多額なお金です。まさかと思うのですが、実際にあることで、何回かそのような人物に遭遇しました。

 仕事と言えば、社内で一番よく出来る方であり、お人柄も悪くない方が、お金にだらしがなく、一瞬にして信用を無くします。最初は出来心かも知れませんが、時間が経つにつれてエスカレートし、多額な金額に登ります。会社にとっては、どろぼうをかっているようなものです。こういう方は論外ですが、お金に信用のないタイプの人は、なかなか、会社から信用してもらえませんので、お金に対しては、常にきれいになってください。これが会社員としての最低のマナーです。

 銀行などに勤務されていた方は、「信用」という言葉はよく聞くかもしれませんが、職業が何であれ、あるいは男女の別であれ、年齢の上下はあれ、職制上の上下はあれ、その人が置かれた立場において、必ず信用というものは発生します。そして、実際に仕事をしているのは、この目に見えぬ信用というもので、それが仕事をしています。

 松下幸之助氏が、大阪商工会議所で講演された時のお話です。

 ダムのようにお金を貯めること、ダムのように人材を育成すること、ダムのように信用を形成していくこと、そして、ダムのように人格を向上させていくことの大切さを話されました。お金のダム、人材のダム、信用のダム、人格のダムです。目には見えませんが、信用を形成していくことも、ダム経営の一つであり、さすが松下幸之助氏ですね。

 ある時、得意先のF社長に尋ねました。

「会社経営で一番大事されていることは、どのようなことですか」

「信頼です」。信頼の一言。「もう少し詳しく教えてください」

「自社が今日までやって来られたのは、従業員をはじめ、お得意さん、協力会社、応援してくださる方々の信頼のお陰です」とおっしゃいました。F社長は「信頼」という言葉で表現されましたが、信用と同義です。

 その人の発した言葉、その人の出した命令、その人の書いたもの、約束ごと、いろいろなことが還元してくると、この仕事という、生き方に対する信用ということに戻ってくるのではないかと思います。

 この世的に値打ちがあるものとか、みんなから一目置かれたり、尊敬される出来事は多いと思いますが、全部はこの信用、その人の信用に戻ってくることがあります。

 この信用、信頼を大切にされることが、幸福への道標であり、仕事においても、人間関係においても、どのような場合でも、重要なことだと思います。