人間関係のお話です。
「他の人との仲をうまくやっていく」ということは、なかなか難しいことです。世の中には、いろいろなタイプの人がいて、そのいろいろなタイプの人が、能力にかかわりなく、上になったり下になったり横になったりするので、他人とトラブルが起きたり、人間関係がぎくしゃくしたりすることは、どうしても避けられないものです。
それでは、そういうことから抜け出すための方法として、どのようなものがあるでしょうか。人間関係が気まずくなって、ぎくしゃくしたときに、それを修復するには、どうしたらよいのでしょうか。
実は、人間関係がぎくしゃくするときには、たいてい、自分が慢心し、高慢になっていて、自分の気持ちが、かなり驕り高ぶっていることが多いです。そして、自分のなかに、相手の悪いところを見て欠点探しや粗探しをする傾向があります。
実力のある人は、そうなりやすいです。人より早く出世していく人は、人の粗がよく見えるからです。「人より早く出世するということは、どうすれば成功するかという、成功の仕方を、ほかの人よりもよく知っている」ということです。そのため、成功の仕方が分からない人たちを鈍臭くて頭が悪いように感じてしまいます。その人たちの欠点がよく見えるので、それを責めたくなるわけです。
このように、「頭がよい」ということと、「他人の欠点や短所がよく見える」ということは、だいたい似た性質なのです。自分の欠点も見えるのですが、他人の欠点も見えます。
その場合に、自分に対して厳しくなるのならよいのですが、自分に対しては甘く、他人に対して厳しくなってくると、だいたい、人間関係に波風が立ち、うまくいかなくなってくると思います。
人間関係がうまくいかなくなってきたときには、原点に帰り、初心に戻って、自分を厳しく見つめ直す必要があります。また、他人に対して粗探しをする癖をやめることが大事です。
人間の能力には、もちろん上下があり、「できる人」と「できない人」はいるでしょう。しかし、人間の価値は能力だけでは決まりません。もっと幅広い、さまざまな要素があります。人間は、性格、行動力、体力、人格、経験など、さまざまな要素を持っている多面体なので、そのすべての面を完全に評価することはできません。それを知ってください。
たいていは、相手を一面的に評価していて、何かの面だけを取り上げて、「駄目だ」と言っているはずです。
したがって、人の粗探しをする習慣をやめて、「相手にも、よいところはないか」という目で見ることが大切だと思います。
そうすると、不思議なもので、口に出して、「〇〇さん、ごめんなさい。そのとき、あんなきついことを言って悪かったね」「あなたのこんな悪いところばかり見ていたのです。すみません」などと言わなくても、自分の考え方や心の持ち方を変えただけで、それが以心伝心で相手に伝わります。
そして、相手のほうも、「あの人を、あんなに嫌ったり、陰で悪口を言ったりしたのは悪かったな」と、同じころに反省を始めます。こちらが考え方を変えると、それに連動して、相手のほうも考え方が変わってきます。
自分の考え方を変えることで、「実につまらないことで、あれこれ言っていたのだな」と分かることがあります。人間関係でつまずきが起きてきたら、粗探しをやめて、相手の長所を認め、相手をほめる気持ちを持つことです。それを口に出して言うことができないならば、心のなかで思うことです。
そうすると、相手のほうも、ちょうど同じ時期に同じようなことを始めます。これは不思議なぐらい符号しているので、やってみるとよいでしょう。必ずそうなります。
上司でも同僚でも部下でもよいのですが、ある人に対して、「あの人は実にけしからん」「あの人は嫌いだ」などと、悪いことばり思う場合には、それを横におき、その反対のこと、相手の長所について考えるようにしてください。
相手を悪く言う場合、それは、たいてい、隠された能力自慢であることが多いです。結局、「自分は、こんなにできるのだ」という自慢、隠れたかたちでの能力自慢のです。それが、他人とぶつかっている原因なので、それを横に置いて、「もう少し相手のよいところを見よう」という寛容な心を持つことです。
長い人生において成功を続けていくためには、ある程度、自分を律していく気持ちがなけえばいけません。一時的に、さまざまな手段を用いて勝ったり成功したりすることはあるとしても、長い目で見て成功するためには、自分を律する気持ちを持って、謙虚に自分を磨いていくことが大事だと思います。
ただ、自分を律する気持ちを持っていると、他人に対しても、同じように厳しくなりがちなので、どこかで、寛容の心、包容力を養っていかなければなりません。
例えば、政治家で、能力的には高いのに、なかなか偉くならない人がいます。それは、能力の高さが他の人に対する厳しさになっているため、人がついてこないからです。会社の社長の場合も、同じようなことはあるでしょう。
その反対に、西郷隆盛は「正月の餅のようだ」と言われていました。「おいておくと、すぐに隣の餅とペッタリくっついてしまう」というわけです。要するに、「近寄ってきた人がペタペタとくっつく」ということです。西郷隆盛は、そういう「粘り気」のある人だったと言われていますが、それも能力の一つであり、人間には、そういうところも必要だと思います。
忍耐力や包容力、罪を許す力も大きな力です。これは試験では決して測れない能力です。これが、正月の餅のように人間と人間を結びつけ、協力者を増やしていく力になります。人に対して厳しすぎると、人が離れていくだけになるので、ある程度、包容力を持って人を受け入れていく必要があります。そういう能力もまた、「リング外」の力として働くことがあります。
自分の能力一本で成功しようとすると、どこかで挫折が来ます。「理外の理」というものはあるので、理論だけで考えてはいけません。人間には、理論以外の「情」の部分があるので、耐えたり、忍んだり、受け入れたり、人の間違いに目をつぶったり、きついことを言われても受け流したりする能力も大きな力です。
成功への道は一通りではなく無限にあります。尾根道から尾根道への一本道だけではありません。いろいろな成功の仕方があります。人間の実力にも、さまざまな面があるので、いろいろなところで自分の実力を鍛え、少しずつ少しずつ上がっていくことが大事だと思います。