委託者が死亡した場合について、「民事信託の実務と信託契約書例(ひまわり信託研究会 伊庭潔編著)」の12頁から引用させていただきます。非常に納得のいく内容であり、委託者が死亡しても信託は終了しないことの意味がよく理解できます。以下、引用部分です。

信託では委託者と受託者の間に高度の信頼関係があることを前提としている。そのため、信託を設定した当事者である委託者が死亡した場合に信託契約は終了するのではないかと考えられるかもしれない。例えば、委任においては、委任者または受任者の死亡により、委任は終了する(民法653条1号)。

しかし、信託では、信託契約により、委託者の死亡により信託を終了させることとしていない場合には、委託者が死亡したとしても、信託契約は終了しない。委託者は死亡したが委託者の地位が相続されることなく、委託者の地位に立つ者が存在しなくなったとしても、信託自体は存続することになる。この場合には、受託者及び受益者だけで信託の主体は構成されることになり、受託者は、受益者に対し、善管注意義務や忠実義務などの各種義務を負うことになる。

当初の信託行為の主体である委託者が死亡し、委託者が存在しなくなったとしても、信託の仕組み自体が終了するとは限らない。二当事者対立構造を前提として考えると、一見、分かりにくい法的状況ではあるが、信託とはこのような仕組みであると理解して欲しい。