H家から、将来の相続対策も考えて、土地の名義変更について相談を受けました。

○ 家族構成

H家の家族構成は、夫、妻、長男、長女、次男の5人家族です。長男、長女、次男は結婚されていて別世帯で独立しています。

妻には、父親と弟がいます。仮にK家とします。

 

○ 相談の内容

相談の土地は、A宅地とB宅地の2筆あります。A宅地の上に持家があり、夫婦がくらしています。持家の名義は夫ですが、底地が妻の父親名義になっています。

また、持家の隣にB土地があり、建物がなく更地です。これも妻の父親名義です。父親は娘(妻)や孫に、その土地を贈与してもよいと言ってくれています。

依頼者は将来のことを考えて、私たち夫婦の面倒は、次男夫婦がみてくれそうなので、A土地の名義を祖父から孫の次男に、B土地の名義を娘(妻)に変えたいのですが、何か良い方法はありますか。

また、次男にA土地を祖父からもらうことになりますが、長男や長女にも公平に財産を残してやりたいということで、B土地を将来売却して、現金で残してやりたいという内容です。

 

1.父の相続まで待つ方法

今回、父の公正証書遺言を依頼されていますので、その際に孫に遺贈、娘に相続させる形をとれば問題ないと思います。しかし、該当のAとBの土地は、将来の地価が上がると予想されますので、相続時精算課税で進める方法が、M家には節税になり、H家には土地の名義が確定されます。

また、M家の相続財産は大半が不動産です。事前の相続対策が必要なケースで、相続税の問題もありますが、争い事がないように相続を進めることが大事です。

依頼者は、一日も早く名義を変更したいとの希望もあり、幸いK家の承諾もあり、相続時採算課税を利用して、贈与で名義変更を進めることになりました。

 

2.相続時精算課税制度の利用

相続時精算課税制度を妻と次男の二人で利用して、贈与手続を進めることを推奨します。理由は、税務署の評価である「路線価」が上がることが予想されるので、K家の相続税の節税にもなり、H家に取っても、一回で名義変更が出来て、すっきりするのではないでしょうか。

この制度は一定の条件に該当しないと利用できませんが、祖父は60歳以上、娘も孫も20歳以上ですので、この相続時精算課税制度を利用できます。孫が利用できるようになったのは、平成27年の贈与からです。

控除額は一人2,500万円です。娘(妻)も孫(次男)も利用できます。二人だと5,000万円になります。

 

3.土地建物は共有名義にしない

土地建物の共有名義は、問題を先送りするだけで、もっとも避けるべきだといわれています。なぜならば、共有後は不動産を貸すにしろ売るにしろ、他の相続人の同意がなければ実行できないため、有効な資産活用ができないうえ、将来、共有者の誰かが亡くなって相続人が増えると、さらに共有関係が複雑になってトラブルのもとになるからです。管理や処分に支障を来すのは目に見えています。

親が元気な間に、きちんとしておいてください。共有名義にすると、子や孫、ひ孫、玄孫まで、遺恨を残すようなことになり、親、長男、長女、次男が元気な間に、きちんとしておいてください。共有名義は、時間が経ち、代が変われば、代襲(だいしゅう)相続になったりして、顔の知らない親戚の印鑑が必要になったりするケースも発生します。

親は今は元気です。しかし将来は分かりません。どちらかが、親の面倒を見るかで判断されても良いし、両親の家に近い子どもが土地建物を相続し、他の兄弟が現金相当額を受け取って解決しても良いと思います。

いずれにせよ、土地や建物はあまり共有名義しない方が望ましいのです。売却する時もスムーズに事が運びますし、住む場合もスムーズに相続や贈与手続が進めます。将来のことは誰も予測がつきませんので、一代で解決することは一代限りで決着をつけておいたほうがベストだと思います。

 

4.長男、長女への現金贈与について

Bの土地が売却される時期は、おそらくご両親が亡くなられた後になりますので、きちんと遺言書を残しておくことです。ぜひ、公正証書遺言になさってください。自筆証書遺言は、形式面で無効になるおそれがありますし、家庭裁判所の検認手続が必要です。相続人全員が呼び出されたり時間がかかります。その点、公正証書遺言は、すぐに相続手続が開始できます。

「Bの土地を売却すること。その金額を長男や長女に相続させる」という公正証書遺言を作成しておくべきです。親亡き後、兄弟3人が揉めないためにも、きちんと公正証書遺言を書いておいてください。それぞれには配偶者もあり、姻戚筋からの横やりもあるかも知れません。争いがないとも断言できませんので、子ども達の幸福を願うなら、公正証書遺言を作成しておくべきです。

いずれにせよ、3人が争うことのないようにしてあげることが、親の責任だと考えます。また、親が元気な間は、子ども達が静かにしているかも知れませんが、親亡き後に争ったケースも多々ありますので、他人事だと思わず、きちんと相続対策を実行なさってください。

 

5.遺留分の放棄も

Aの土地建物が次男になり、B土地を換金して長男、長女に配分しても、三人のバランスがとれなくて不公平感が残り、長男、長女にまだ遺留分があるようでしたら、「遺留分の放棄」を家庭裁判所でする方法もあります。もちろん、ご両親が元気な間に、長男、長女の了解の元で進めます。

 

6.結論

いずれにしましても、B土地は妻名義にして、もう少し時間をおいてから、長男、長女の現金贈与を考えましょう。また、良い方法論が出てくるかも知れません。