Sさんからの相談です。Sさん夫婦には子どもさんがいらっしゃいません。唯一の財産は、自宅の土地建物だけです。ともに70歳を過ぎたので、自宅の名義をどうするか、相談を受けました。

公正証書での遺言書を勧めてみました。

1.相続について

自宅について、相続が開始されると、Sさんご夫婦には子どもがいないために、相続人は甥・姪まで及ぶことになります。つまり、自宅の相続登記をする時に、夫の甥・姪又は妻の甥・姪の実印や印鑑証明書が必要になってきます。

そこで、お二人が元気な間に「公正証書遺言」を作成されることをお勧めします。自筆証書遺言では、甥・姪に家庭裁判所まで遺言書の「検認手続」に出向いてもらう必要があります。その点、公正証書遺言は、甥・姪の印鑑なしで、相続登記を済ますことができます。

 

2.公正証書遺言

遺言書は、遺産相続をどのようにしてほしいかという指示するための書類で、形式や内容が法律で決められており、その内容には法的な強制力があります。公正証書遺言にしておけば、相続手続が簡単に進めることができます。つまり、Sさんの場合は、甥・姪の印鑑なしで、夫または妻の名義に切替えることができる便利な遺言書です。

また、甥・姪の場合は、遺留分(いりゅうぶん)がありません。遺留分とは、遺言書を作成しても、相続人が自分にも最低限遺産をもらう権利があると主張できることです。遺留分は、原則として法定相続分の半分です。

Sさんの例で言えば、夫が亡くなった場合、妻の法定相続分は3/4です。夫の兄弟姉妹が残りの1/4になります。その場合、妻の遺留分(最低限の権利)は、3/4の半分3/8です。例えば、夫婦に子どもがなく、夫に愛人がいた場合、夫が財産の全部を愛人に相続させるという遺言書を作成しても、妻は財産の3/8は取得する権利があるということです。但し、妻が裁判して遺留分の3/8を勝ち取る手続が必要になります。ほっておけば、すべて愛人の財産になります。

しかし、1/4の法定相続分を持つ兄弟姉妹には遺留分がありませんので、遺言書を作っても、遺留分の訴えを起こされることがないということです。兄弟姉妹が亡くなっている場合は、その子ども、つまり甥・姪が代襲相続になり、1/4の法定相続分はありますが遺留分がないので、遺言書が100%効力を発揮します。

Sさんのケースがこれになり、公正証書遺言を作成される意義は大きいと考えます。

夫亡き後、妻亡き後、家の名義がスムーズにいくように、事前に公正証書遺言を作成しておいてください。夫のためであり、妻のためでもあります。夫や妻亡き後、姻戚筋からの横やりもあるかも知れません。争いがないとも断言できませんので、幸福を願うなら、公正証書遺言を作成しておくべきです。一日も早く実行なさることです。

 

3.自筆証書遺言

中途半端な遺言書はトラブルのもとになります。せっかく家族のためを思って遺言書をつくったのに、法的な不備があったり内容が中途半端だったりして、かえって相続トラブルのもとになることがあります。そのために、結局、遺言書が相続手続に使えなくて遺産分割協議が必要になり、話し合いがこじれて相続手続ができなくなる可能性もあります。数万円をケチったばかりに、死後、相続人が数十万円から数百万円の裁判費用や損失を負担したケースもよくあります。

自筆証書遺言は、形式面で無効になるおそれがありますし、家庭裁判所の検認手続が必要です。相続人全員が呼び出されたり時間がかかります。Sさんの場合は、甥・姪まで家庭裁判所に出向く必要が出てきますので、公正証書遺言をお勧めします。いや、公正証書遺言にすべきです。また、家の登記をする時に、公正証書遺言にしておけば、甥・姪の印鑑なしで、相続登記を進めることができます。

 

4.公正証書遺言に必要な書類

① 遺言者本人の印鑑証明書  各1通

② 戸籍謄本(夫婦関係がわかるもの) 1通

③ 不動産の登記簿謄本(自宅の土地建物) 各1通

④ 固定資産の評価証明書(自宅の土地建物)各1通

⑤ 個人の実印

 

5.公証役場に支払う基本手数料

目 的 の 価 額 手数料
100万円以下 5,000円
100万円超~200万円以下 7,000円
200万円超~500万円以下 1万1,000円
500万円超~1,000万円以下 1万7,000円
1,000万円超~3,000万円以下 2万3,000円
3,000万円超~5,000万円以下 2万9,000円
5,000万円超~1億円以下 4万3,000円
1億円超~3億円以下、5,000万円ごとに1万3,000円加算
3億円超~10億円以下、5,000万円ごとに1万1,000円加算
10億円超は、5,000万円ごとに8,000円を加算

※相続人ごとに計算する。

※全体の財産が1億円以下の場合は別途、遺言手数料1万1,000円がかかる。

※用紙代3,000円

固定資産の評価証明の評価額を見ないと「目的の価額」がわかりませんが、例えば、土地建物の評価額が1,000万円以上3,000万円以下なら

23,000+11,000+3,000=37,000円(一人)

 

6.証人2名が必要

証人2人の身分証明を示すもの(運転免許等)