社会保険の強制加入と(旧)社会保険庁の年金流用問題、年金記録問題に焦点を当て、考えてみたい。

今、小零細企業で問題になっているのが、社会保険の強制加入制度である。日本年金機構は今年度から、立ち入り調査を含む強力な指導に乗り出した。現実に筆者の得意先数社も、社会保険の未加入リストにあがり、催促の公文書が何度も届いている。また、建設業や運送業の許可申請時に社会保険に加入しない法人は、許可申請もできない状態になっている。そこで許可を得るために、やむなく社会保険に加入する。厚生労働省と国土交通省等の連携プレイで、社会保険に加入する小零細企業が増加しているのも事実である。加入後は社会保険料の負担が重くのしかかり、破綻の危険性もあったが、企業努力で順調に推移している企業もあれば、予想どおり社会保険料で資金繰りが悪化している企業も多くあり、滞納保険料が増え続けている企業も少なくない。最悪の場合は破綻した企業もある。

少子化が進み、年金財源の乏しさやそれを支える方々の悲痛も聞こえてくる。また、社会保険に加入している小零細企業もあるので、不公平感もつのる。小零細企業は、社長の一存ですべてが決まるワンマン経営者が多いので、労働基準法等の労働法規を殆ど無視している経営者もいる。こういう状況下で働く労働者は辛い。反対に労働基準法を守り、就業規則等も整備され、真剣に雇用問題と取り組んでいる経営者も多くいる。当然と言えば当然であるが、小零細企業が社会保険に加入することで、資金面で苦しみ、倒産に追い込まれることも免れない。さらには、社会保険に加入していない(加入できない)小零細企業には、正規雇用の人材も集まりにくい。このように、社会保険に加入しない企業の経営者責任が問われている。

上述のように小零細企業が、社会保険に加入することで資金繰りが悪化し、かえって滞納保険料を増加させる結果になり、年金機構の対策効果が空回りしている部分もある。これらの現象を踏まえて、過去の事件であるが、年金を徴収する側の行政姿勢、行政対策と小零細企業の未加入問題を比較させてみた。

まず、公的年金流用問題について述べる。公的年金流用問題とは、公的年金制度によって集められた年金保険料が、年金給付以外の用途に安易に使われていたことである。その額は56年間で6兆7878億円に上ることが判明している。平成16年の年金制度改正時に、一層厳しくなる年金財政の状況を踏まえた改革が進められていく中で、年金保険料を投入して諸事業を進めてきた国や関連団体に対して、国民の厳しい批判の目が注がれた。(公的年金流用問題:社会保険庁)

主に「グリーンピア事業」「事務費の無駄遣いというか、私的に近い流用」「カワグチ技研を巡る汚職」があった。グリーンピア事業は、年金福祉還元事業という名の箱物(保養施設、福祉施設)を建設し、そこに官僚を天下りさせて多額な赤字財政になった。事務費の無駄遣いは、職員宿舎の整備費用、社会保険庁長官の交際費、社会保険庁の公用車購入費の妥当性が問われ、また、社会保険事務所のマッサージ機器、職員のミュージカル鑑賞、プロ野球観戦の福利厚生に使っていた。

次に、年金記録問題である。平成19年5月、社会保険庁のオンライン化のコンピュータ入力ミスや不備が多いこと、基礎年金番号の未統合状態が明らかになった。国会やマスコミにおいて、年金記録のずさんな管理が批判されて、名寄せに莫大な人と時間とお金を掛けた。当時の朝日新聞の記事によると、その額は4,000億円である。しかもそれだけお金を掛けたにも関わらず途中で幕引きとなり、社会保障審議会の特別委員会がまとめた報告書は、完全な実態解明の難しさを認めた。

以上二つの事件を取りあげたが、行政側が立ち入り調査までして社会保険に加入させる対策は、再び無駄な時間と年金の無駄使いに繋がる。行政の責任を未加入企業に回避させる行政姿勢の問題点を指摘する。滞納保険料の問題点、小零細企業の資金悪化や破綻を取り上げるまでもなく、本末転倒の行政対策である。

最後に提案であるが、年金は一定の年数を掛けないと貰うことができない。1年でも2年でも、掛けた分だけの保険料が戻ってくるなら、加入者も増える。既に社会保険に加入している企業の未加入者を減らすことができるのではないか。また、社会保険料を標準報酬額で算出するのではなく、労働保険料のように年間給与額を基に算出すれば、不公平感も是正される。さらには、社会保険の強制加入制度を廃止することも提案する。なぜならば、企業自体は社会保険に加入していないが、社長以下各人が国民健康保険や国民年金に加入しているわけであり、企業自体の未加入を強制すべきではない。それよりも、もっと繁栄発展する経済政策を打ち出すほうが、年金問題の解決を早め、雇用問題も自ずから解消される。例えば、宇宙産業やロボット産業、TPP問題を進めることのほうが最優先すべき課題である。