1.企業会計原則における収益認識基準

損益計算書原則三Bに「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。ただし、長期の未完成工事請負工事等については、合理的に収益を見積り、これを当期の損益計算書に計上することができる。」とあり、注解の工事収益については、「長期の請負工事に関する収益の計上については、工事進行基準又は工事完成基準のいずれかを選択適用することができる。」とあります。

工事進行基準は、「決算期末に工事進行程度を見積り、適正な工事収益率によって工事収益の一部を当期の損益計算に計上する。」工事完成基準は、「工事が完成し、その引渡しが完了した日に工事収益を計上する」と規定しています。

企業会計原則では、工事進行基準と工事完成基準の選択適用を認め、工事進行基準を適用する場合には、決算期末に工事進行程度を見積り、適正な工事収益率によって、当期の工事収益を計上するとしています。企業会計原則には、これ以上の適用指針がありません。つまり、どのような工事に工事完成基準が適切で、どのようなケースの場合に工事進行基準を適用するか載っていません。

 

2.企業会計原則における長期請負工事の会計処理

会計の世界で「長期」というときは、期末現在からみて1年を超えるという意味で使われています。いわゆる1年基準です。しかし、長期請負工事の長期という場合の長期は、1年を超えるということではなく、「次期にまたがる」という意味です。

企業会計原則が想定しているのは、収益の適切な期間配分です。つまり、契約を完全に履行した期に計上するのが適切なのか、それとも工事が進行する度合いに応じて収益を計上するのがよいのかを問題にしています。

 

3.工事契約に関する会計基準と適用指針

平成19年12月に、企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」(以下、新基準という)と企業会計基準適用指針第18号「工事契約に関する会計基準の運用指針」(以下、適用指針という)が公表されました。

新基準が設定されたのは、企業会計原則が「長期請負工事」の会計処理として、無条件に工事完成基準と工事進行基準の選択適用を認めていたが、「同じような請負工事契約であっても、企業の選択により異なる収益等の認識基準が適用される結果、財務諸表間の比較可能性が損なわれる場合がある(新基準29)」ことから、「工事契約ごとに会社が適用すべき収益認識基準」を明らかにするためでした。国際的な会計基準との整合性を図るということも意図されていました。

今後は、企業会計原則に優先して新基準が適用されますが、新基準が工事進行基準を原則とする点を除けば、請負工事の基本的な収益計上の会計処理は変わりません。

 

4.工事契約に係る認識の単位

ある取引を行う場合、取引の内容や取引の単位はすべての当事者間の契約において合意される事項です。その取引の会計処理も、合意された取引の実態を忠実に反映するように、実質的な取引の単位に基づいて行う必要があります。

一般に取引を行うに当たって交わされる契約書は、「実質的な取引単位」を反映しています。しかし、場合によっては契約書が当事者間で合意された実質的な取引の単位を反映していないと考えられる場合には、工事収益と工事費用を、形式的に契約書上の取引によることなく、実質的な取引の単位に基づいて認識する必要があります。

実質的な取引単位というのは、工事施工者が、一定の範囲の工事を履行することによって、顧客から対価に対する確定的な請求権を獲得する場合の工事内容を言います。

例えば土木会社が、新しい道路を施設する工事を受注したとします。当社は、第1次の工事として予定地の地ならしを、第2次の工事としてアスファルトによる道路の形成を、第3次の工事としてセンターラインの線引きやガードレール・カーブミラーの設置を予定し、発注者の了解を得たとします。各段階の工事が終わると、それぞれの作業内容に応じて発注者から代金の支払いがなされる約束になっています。

この場合、すでに履行を終えた工事部分の対価について確定的な請求権を獲得したので、「実質的な取引の単位」となります。残る工事部分、例えば上の例でいうと、ガードレール・カーブミラーの設置を仮に履行できなくなったとしても、それは別の工事が履行できなくなったと理解します。

そうした会計処理をするために、ときには契約上の取引をいくつかに分割したり、または複数の契約書の単位を結合したりして、会計処理を行う単位を決めることが必要になることもあります。

 

5.工事契約に係る認識基準

新基準は、工事進行基準が原則です。

工事契約に基づく工事の進捗度に応じて、それに対応する部分について「成果の確実性」が認められる場合には、工事進行基準を適用し、この要件に当てはまらない工事には工事完成基準を適用します。

つまり、工事の進行途上においても、その工事の進捗部分について成果の確実性が認められる場合には、あえて工事の完成を待つ必要なく、工事進行基準を適用して進捗部分に対応した工事収益と工事費用を計上します。これが、新基準における工事契約の原則的な処理です。

このように新基準では、最初に、工事進行基準を適用する条件が満たされた工事であるかどうかを判定します。進行基準の適用要件を満たす工事には工事進行基準を、この要件を満たさない工事には、工事完成基準を適用します。これまでの選択適用ではなく、一定の条件を満たすかどうかで、進行基準を適用するか完成基準を適用するかが決まります。

 

6.工事進行基準の会計処理

工事進行基準が適用されるのは、工事の進捗部分について「成果の確実性が認められる場合」です。つまり、「工事収益総額」「工事原価総額」「決算日における工事進捗度」の3つについて、信頼性をもって見積もることができる場合です。

ここでいう「工事進捗度」は、総工事に占める決算日までに遂行した工事部分の割合をいいます。この割合は、総工事に必要な時間数からでも、作業に従事する人数からでも、工事に必要な原材料の費消割合からでも、計算できます。

しかし、これまで工事に要する費用は、多くの場合、工事の入札時に予定されていた金額の費消割合によって進捗度を計ってきました。これを原価比例法といい、各期の収益と利益は次のように計算されます。

① 当期の計上収益=請負金額×当期の発生原価/予想総工事原価

② 当期に計上すべき利益の計算

請負金額-予想工事原価=予想工事利益

予想工事利益×当期の発生原価/予想総工事原価-前期までの計上利益

=当期に計上すべき利益額

なお、原価比例法以外にも工事の進捗度をより合理的に把握する方法があれば、その方法を採用します。

新基準では、そうした原価比例法以外の方法として直接作業時間比率を使う方法「直接作業時間比例法」と施工面積比率を使う「施工面積比例法」を紹介しています。

例えば、工事の進捗が工事原価総額よりも直接作業時間という関係が深いと考えられるような状況においては、決算日における工事進捗度の見積方法として「直接作業時間比例法」を使い、また、工事原価の発生よりも施工面積のほうが適切に工事進捗度を反映していると考えられる場合には「施工面積比例法」を適用します。

① 直接作業時間比例法

当期の計上収益=請負金額×当期の直接作業時間/予想直接作業時間

② 施工面積比例法

当期の計上収益=請負金額×当期の施工面積/総工事面積

要するに、決算日における工事進捗度は、「工事契約における施工者の履行義務全体との対比において、決算日における当該義務の遂行の割合を合理的に反映する方法」(基準15項)を用いることになります。