1.前提

会計の世界で「長期」というときは、期末現在からみて1年を超えるという意味で使われています。いわゆる1年基準です。しかし、長期請負工事の長期という場合の長期は、1年を超えるということではなく、「次期にまたがる」という意味です。

企業会計原則が想定しているのは、収益の適切な期間配分です。つまり、契約を完全に履行した期に計上するのが適切なのか、それとも工事が進行する度合いに応じて収益を計上するのがよいのかを問題にしています。

つまり、決算末で「工事進行基準」を採用して、売上高を計上するのか、しないかの話です。もちろん、期中で着手から引渡しが行われる工事は、当然に完成基準で売上高を計上することになります。これを前提に、会計と税務を比較しながら進めていきます。

 

2.税務上の工事進行基準の取扱い(長期大規模工事)

法人税法では、H20年度の改正により、次に掲げる要件のすべてに該当する長期大規模工事(赤字工事を含む)については、工事進行基準により各事業年度の収益と費用を計算します。

これは強制適用です。長期大規模工事に関しては、工事完成基準ではなく、工事進行基準で、売上高を計上しなさいということです。

① 着手の日から当該工事にかかる契約において定められている目的物の引渡しの期日までの期間が1年以上であること。

② 請負金額が10億円以上であること。

③ 契約において、請負契約の2分の1以上が工事の目的物の引渡しの期日から1年経過する日後に支払われることが定められていないこと。

らんぼうですが、工期が1年以上、金額が10億円以上、代金の半分は工期中に払います。これらに当てはまる工事は、工事進行基準で売上高を計上しなさいということです。

なお、「長期大規模工事」以外の工事については、税務上は、工事進行基準でなく、工事完成基準で売上高を計上しても何ら問題はありません。もちろん、工事進行基準を適用することも認められています。(法64②)

また、税務上では「長期大規模工事」以外の工事について、工事進行基準の方法により経理しなかった場合には、翌事業年度から工事進行基準を適用できません。翌事業年度からとは、その工事を引渡しする前の事業年度までに、工事進行基準で経理しなかった場合ということです。

さらには、会計上は「継続性の原則」という原則があって、同じ基準で収益認識するのが望ましいとされています。

 

3.税務上の工事進行基準の方法

工事の進行割合を用いて、工事原価を把握します。

工事の進行割合については、工事の進行度合を示すものとして合理的と認められる方法を適用しなさいとなっています。(法令129)

税務上は、具体的な方法を規定していませんが、合理的な方法とは、「工事契約に関する会計基準」や「工事契約に関する会計基準の運用指針」に示されている方法です。代表的なものに「原価比例法」があり、多くの会社では、このを採用しています。

原価比例法の進行割合は、当期の発生原価/予想総工事原価で算出されます。

くわしくは、建設業の会計の「工事進行基準の収益認識と工事原価について」の記事をご覧になってください。

 

4.会計上の処理は

⑴ 工事契約に関する会計基準と適用指針

平成19年12月に、企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」(以下、新基準という)と企業会計基準適用指針第18号「工事契約に関する会計基準の運用指針」(以下、適用指針という)が公表されました。

新基準が設定されたのは、企業会計原則が「長期請負工事」の会計処理として、無条件に工事完成基準と工事進行基準の選択適用を認めていたが、「同じような請負工事契約であっても、企業の選択により異なる収益等の認識基準が適用される結果、財務諸表間の比較可能性が損なわれる場合がある(新基準29)」ことから、「工事契約ごとに会社が適用すべき収益認識基準」を明らかにするためでした。国際的な会計基準との整合性を図るということも意図されていました。

今後は、企業会計原則に優先して新基準が適用されますが、新基準が工事進行基準を原則とする点を除けば、請負工事の基本的な収益計上の会計処理は変わりません。

 

⑵ 工事契約に係る認識基準

新基準は、工事進行基準が原則です。

工事契約に基づく工事の進捗度に応じて、それに対応する部分について「成果の確実性」が認められる場合には、工事進行基準を適用し、この要件に当てはまらない工事には工事完成基準を適用します。

つまり、工事の進行途上においても、その工事の進捗部分について成果の確実性が認められる場合には、あえて工事の完成を待つ必要なく、工事進行基準を適用して進捗部分に対応した工事収益と工事費用を計上します。これが、新基準における工事契約の原則的な処理です。

このように新基準では、最初に、工事進行基準を適用する条件が満たされた工事であるかどうかを判定します。進行基準の適用要件を満たす工事には工事進行基準を、この要件を満たさない工事には、工事完成基準を適用します。これまでの選択適用ではなく一定の条件を満たすかどうかで、進行基準を適用するか完成基準を適用するかが決まります。

 

5.結論

10億円以上の長期大規模工事を受注する会社は、法人税法の縛りを受けますが、零細企業は、従来どおり出来高請求で売上を計上していますので、何ら考える必要がありません。元請工事を受注する中小企業や親会社との連結決算などで、工事進行基準を採用する場合には、税務上や会計上のことをしっかりと把握しておくことが必要になってきます。

結論的には、

税務上は、長期大規模工事だけは、工事進行基準で売上高を計上しなければなりません。もちろん、それ以外の工事も、工事進行基準を適用することも認められています。

会計上の処理は、新基準を優先させ、工事進行基準で売上高を計上しなさいということになります。

国際会計基準や新基準は、工事進行基準が原則であり、その場合の工事原価の見積りなどの詳細な規定を定めています。見積り原価をきちんと計算して、工事進行基準を適用してくださいということになります。工事原価見積りについては、「原価比例法」が多くの会社で採用されています。くわしくは、建設業の会計の「工事進行基準の収益認識と工事原価について」の記事をご覧になってください。