1.概要

消費税においては、完成引渡しの日に、資産の譲渡等(売上)を認識するのが原則です。しかし、法人税に準じて、工事進行基準で適用することができます。もちろん、引渡基準も適用できます。法人税で工事進行基準を採用していても、消費税の計算は、改めて2つの方法の内、どちらかを選択できるのです。

一方、控除する課税仕入については、その課税仕入を行った日の属する課税期間に控除します。これが原則です。しかし、期をまたぐ長期請負工事については、完成引渡し時点で、支払消費税を一括して控除できます。これは継続処理が前提となります。

 

2.消費税における資産の譲渡等(売上)の時期

消費税では、請負工事に係る資産の譲渡等の時期、すなわち売上を計上すべき日は、原則として、その全部を完成して相手方に引渡した日とされています。(消基通9-1-5)

ただし、法人税で工事進行基準を採用していれば、消費税でも工事進行基準を適用することができます。原則の引渡基準と、いずれかの選択適用です。

つまり、法人税において工事進行基準を適用している場合には、それが長期大規模工事に係る強制適用であっても、消費税においては、改めて、工事進行基準や引渡基準を選択することになります。消費税を計算する時は、改めて仕切り直すことになります。

消費税は選択適用ですから、法人税において工事進行基準で売上を計上していても、消費税は引渡基準で計算してもよいわけです。

法人税と消費税では取扱いが違います。表で確認しましょう。

区 分 法人税の取扱い 消費税の取扱い
長期大規模工事 強制適用 工事進行基準 選択適用 引渡基準
工事進行基準
上記以外の工事 選択適用 工事進行基準 選択適用 引渡基準
工事進行基準
引渡基準 強制適用 引渡基準
延払基準 選択適用 引渡基準
延払基準

 

3.課税仕入の時期

会計においては期間利益の算定が、法人税においては、その事業年度の所得金額の算定が重要ですが、消費税には、利益の概念、期間的な費用収益の対応概念がありません。

したがって、課税仕入を行えば、それがその課税期間の費用になっても、資産に計上されても、すべて仕入税額控除の対象となります。

ゆえに、工事原価については、工事進行基準や引渡基準の区別はありません。

つまり、工事原価にかかる支払消費税(仮払消費税)は、現実に課税仕入を行った課税期間に、消費税の仕入税額控除をします。これが原則です。必ずしも、工事進行基準に基づいて、原価比例法で計算された見積りの工事原価に係る支払消費税とは対応していないということです。

建設業者は、原材料の仕入や外注費などは、これを支払った日に費用処理しないで、通常、未成工事支出金勘定で経理します。そして、請負った目的物が完成し引渡した時点で、売上に対応する原価として一括費用計上されます。

この未成工事支出金に計上した仕入や外注費は、当然に材料の引渡しや外注先からの役務の提供が完了していなければなりませんが、それらに係る消費税が、控除の対象になるということです。工事完成基準や引渡基準に関係なく、支払消費税を計算する時は、現実に資産の引渡しや役務の提供が完了した日に、仕入税額控除の対象とします。これが原則です。(消基通11-3-1)

ただし、未成工事支出金に計上した課税仕入については、その工事の完成時に一括して仕入税額控除を行う特例が設けられています。これは継続して適用している時に認められます。(消基通11-3-5)

つまり、未成工事支出金に計上した課税仕入にかかる消費税を、それぞれの該当年度から控除しないで、工事が完成し引渡した時点で売上高が計上され、その時に、未成工事支出金から工事原価に振替した時に、まとめて消費税を控除する方法です。この方法で、継続して会計処理をしている時は、この方法が認められています。

 

4.結論

工事進行基準を採用して計算された売上高や見積りの工事原価は、会計や法人税法では同じ取扱いになりますが、消費税は、違う計算方法をします。

その結果、工事進行基準を採用して、消費税を計算した時に、興味ある結果が生じることがあります。

例えば、工事進行基準を採用して、売上高と工事原価を計上して決算をしました。原価比例法を用いて、適正に売上高も工事原価も処理されました。法人税や事業税等の税金は、収益と費用が対応された利益に課されます。

今度は消費税を計算する時に、売上高に関しては工事進行基準を選択せず、引渡基準を採用し、仕入税額控除は、原則的な方法を採用しました。

その結果、消費税の還付金が発生するケースが多くなります。つまり、売上高に係る消費税は0円。引渡基準ですから、売上が発生していないことになりますから、預り消費税はありません。しかし、支払消費税の方は、未成工事支出金勘定で支払済ですので、その分が還付になります。現実に、多額の消費税が還付された事例があります。もちろん、複数年で消費税を計算すれば適正化されますが、一時的にせよ、消費税の繰り延べ現象が起きるわけです。

中小企業でも、連結決算が伴う会社は、親会社が工事進行基準を採用していれば、子会社も同じように工事進行基準を採用した結果、消費税が還付されることがあります。M&Aなどで、親会社の参加に入る中小企業もありますので、それまでは、その子会社は、単独法人で、完成工事基準で決算をしていたために起きた結果です。