宮大工さんと言えば、金剛組を思い出します。大阪の天王寺区にある建設会社ですが、創業は何と飛鳥時代の西暦578年です。今は2024年ですから1446年の歴史がある世界最古の会社です。第30代敏達(びだつ)天皇の時です。1446年前に聖徳太子の命によって四天王寺を建立した宮大工さん金剛重光氏がルーツです。
金剛組の本社は、私の事務所から比較的近いところにあり、行政書士の開業当初から知っていましたした。宮大工に興味を持っていましたので、一度、会社訪問をさせてもらったこともあります。その後、経営状態が悪化しました。平成17年(2005年)頃の話です。しかし、当時の髙松建設㈱の支援により、健全に立ち直り現在に至っています。
リワナビNEXTジャナルのネットからの引用ですが、「金剛組を潰したら大阪の恥や。古いものは一度なくなってしまうと二度と元に戻すことはできない。そうでなければ長い年月、積み重ねてきた人の努力も技術もなくなってしまう。商人の街、大阪の上場企業として、それを見逃すようなことはできない」と、当時の髙松会長が取締役を集めて告げた言葉です。
「一般の建築屋だったら、支援はしていないでしょう。世界最高の社寺建築屋で、国宝級の技術があったからこそ、支援が決まりました」と、現在の金剛組である刀根社長の談話です。
「大阪の恥や」宮大工の技を「国宝級や」という熱い思いで、金剛組への全額出資が決まったわけですが、やはり、誰かがどこかで見ているのですね。1400年以上の歴史と国宝級の技術を持つ会社を支援されたわけです。まさに「義理と人情のなにわ節」です。髙松会長の心意気に感動しました。ある意味では、国宝級の日本伝統を後世に残された大事業と捉えても、おかしくありません。
もう一つ、宮大工さんで思い出すのが、西岡常一氏です。「木に学べ 法隆寺・薬師寺の美(小学館)」という書籍があります。その中にこんな一説が書かれています。引用があえて長くなりますが、お許しください。
「長い目で見たら、木を使って在来の工法で家を建てたほうがいい。今ふうにやれば一千万円ですむものが在来工法で建てると一千二百万円かかりますわ。そのかわり二百年はもつ。一千万円やったら25年しかもたん。二百万多く出せば二百年もつ。どっちが得か考えてみなさい」。
「なぜ二百万円高くなるかいうたら、つまらん理由なんですわ。在来工法ですと柱と柱の間が二間で、4m25㎝の材木でないとほぞが刻めないんですね。そやけど4mで切ってしまいますので、材木屋が。規格ゆうてボルトでさっととめる。ほやから在来工法でやろと思たら、材木を特別注文せにゃならん。それで高うなるんですわ」。
「建築規準法も悪いんや。これにはコンクリートの基礎を打回して土台をおいて柱を立てろと書いてある。しかし、こうしたら一番腐るようにでけとるのや。コンクリートの上に、木を横に寝かして土台としたら、すぐ腐りまっせ。20年もしたら腐ります。やっぱり法隆寺や薬師寺と同じように、石をおいてその上に柱を立てるというのがだいじなんです。明治時代以降に入ってきた西洋の建築法をただまねてもダメなんや」。
さすが名大工のおっしゃることは違います。この西岡常一氏の孫弟子に当たる方が、某研究会のメンバーにいらっしゃいます。T社長の社寺建築会社です。
彼は、全国の神社仏閣を専門に手掛けられています。普通の建築は一切なさいません。いわゆる宮大工さんですが、同じ宮大工さんからも一目おかれています。神社仏閣にかける情熱は半端ではありません。目を見張るものがあります。彼の木材置場には、様々な木が並んでいますが、何年もかけて乾燥させています。その財産だけでも億単位になるらしいです。
もう一人、S社長も神社仏閣を手掛けられている宮大工さんです。祖父の代からの宮大工さんですが、先ごろ、ブラジルから依頼があり、お寺の修復工事をされました。
神社仏閣は、ボルトや釘を使わず建築されていますから、普通の大工さんでは太刀打ちできないらしいです。10日前から酒やたばこを断ち、ご自身の体を清めてから現場に入るとのこと。昔はもっと厳しいかったらしく、現在はその厳しさも甘くなっていますが、S社長の祖父の時代には、本当に厳格な儀式の後に現場に入ったものですとおっしゃいます。
ところで、この某研究会は、西岡氏のようなおたくの集まりのような方ばかりで構成されています。メンバーの半数は、一級建築士事務所のこだわりの先生方。あとの半数は、神社仏閣を専門とされる建築会社の集まりです。理事長をされているM先生から13年前に一般社団法人の設立依頼を受け、私も勉強のために当初から準会員として参加させてもらっています。
これぞ、こだわり業者の集まりで、未来に向けても大事にしたい建築技術です。宮大工さんのような専門工種も、絶対になくてはならない貴重な存在ですね。
冒頭に金剛組の話もしましたが、日本の建設業界は長い歴史をもっています。1400年以上に渡り、素晴らしい技術を磨いてこられました。日本の宮大工さんの技術は、後世に残さなければならないと痛感しました。