Ｓ社長からの贈り物

　20年数年前の話ですが、当時のＳ社長が経営されている会社を紹介いただきました。建設業の許認可と経営事項審査の仕事です。

　約束の日に伺うと、Ｓ社長は急用ができて留守でしたので、経理部長が丁寧に対応くださいました。応接間で延々2時間ほど、3期分の決算書と現時点の試算表を示されて、会社の内容を説明くださいました。

　その試算表を見て、びっくりしました。明日にも倒産してもおかしくないほど、大赤字です。初対面の私に、このような話をされることは、初めての経験でした。少し失望しながら、その日は帰りました。

　後日、約束の日に伺うと、Ｓ社長はまた不在でした。この日も経理部長が対応くださり、また同じような内容の話になりました。「うちの顧問税理士は何の相談にも応じてくれません。帳面付けは社内でやっていますし、年1回の決算だけで、毎月20万円も支払っています」。「先生は、どのように思われますか」と、相談を持ち掛けられました。

「ここの社屋は、最近購入された自社物件とお聞きしましたが、今すぐにでも売却されることが賢明です。その他諸々の対応策も提案しますが、詳しくは社長さんのいらっしゃる時にお話します」と言って、その日も帰りました。

　三度目にやっとＳ社長に会えました。応接間に案内されるや否や、誠に失礼かと思いましたが、「社長、このままじゃ倒産です。自社物件をすぐに売却するなり手を打たないと、おそらく３ヶ月は持たないでしょう。誠に失礼ですが、私の正直な感想です」。

「よくぞ言ってくれました。こんなにずばり言ってくださる先生は初めてです。嬉しいです。感動です。私も多くの先生方と交流を持っていますが、殆どの先生はうわべばかりで本音の気持が伝わってきませんでした。本当に先生みたいな方は初めてです。実は私も全く同じことを考えていて、今後の対応策を弁護士を通じて走り廻っていました。二回も約束を破り大変失礼いたしました」。

「今、この会社を整理するなりして、別会社を2社立ち上げる準備をしています。それぞれの会社を大番頭と子番頭に譲り、私は退くつもりをしていますが、彼らが一本立ちできるまで応援していくつもりです。建設業のことは一切、先生にお任せします。これからも建設業以外にも相談にのってください。先生のことが気に入りました。よろしくお願いします」。

　その後も、様々な相談を受けるたびに心から対応させていただきました。益々、Ｓ社長に気に入られ、２社の従業員採用の面接に立ち会ったこともありました。

　Ｓ社長は、すぐに本社社屋を売却され、残務整理に奔走されました。詳しい話は省きますが、相当、ご苦労もあったようです。

　以来、2社の建設業の許認可と経営事項審査の仕事をさせてもらっています。あれから、何か事あるごとに相談を受けますが、Ｓ社長の素晴らしいところは、自分はどうなってもいい、従業員を非常に大切にされていましたので、Ｓ社長のご苦労が昨日のように思い出されます。

「自分の道楽三昧で、自分の会社を潰してしまいました。これは自業自得と言うものです。全部、私の責任です。もう少し早く先生に出会えていたら、この会社も変わっていたかも知れませんが、これからは先生と一緒です。何より嬉しいです」と、目に涙を浮かべながらおっしゃいました。私も嬉しくなって泣いてしまいました。

　この時ほど、心を込めた仕事を続けてきて、嬉しかったことはありません。いつの日か、Ｓ社長と我俺の仲になり、喜びも悲しみも超えて、語りあえるようになりました。