得意先であるC社長のお話です。お世話になって30年になります。

 C社長の設備会社は、地元で信頼されている優良会社です。営繕仕事は土日に関係なく施主さんの都合で対応されます。蛇口の取替え、お風呂やトイレの水漏れ、シロアリ駆除など三千円、五千円の営繕仕事を最も大切にされています。

 最初から大きな工事を求められません。なぜならば、大きな工事は競争相手があり、必ずしも自社が成約するとは限らないからです。それよりも、小さな営繕仕事でも、お客さんに喜んでもらえる仕事に力点をおかれています。このように小さな仕事を積み重ねられてきました。

「どんな小さな仕事でも、やがて、そのお客さんの大きな仕事に膨らんでいきます。あるいは、そのお客さんの紹介で大きな仕事を紹介くださいます。その時は競争相手もなく、大きな仕事を受注できます」

「なるほど、すごいですね」

 誰も見向きもしない、邪魔くさい仕事を丁寧にされます。確かに三千円、五千円では赤字ですが、これを最も大切にされます。こういうお客さんのリストが数千件もあるそうです。その中のお客さんから大きな仕事が入ります。すべて施主さんからの元請工事ばかりです。このような経営方針で、C社長の会社は繁栄発展を築いてこられました。

 まさに特命発注ですね。施主さんとC社長との信頼関係がなければ、特命発注になりません。無欲の大欲ですね。このような考え方が、C社長の会社経営に活かされているのですね。なかなか、こういう考え方はできません。

 もう一つ、いつも大切にされていることがあります。

 C社長は、工事現場に誰よりも早く出勤され、仮設トイレの掃除や現場の清掃をされます。また、機械工具の手入れや重機の洗車もされます。一日も欠かされたことはありません。工事現場で働く職人さんらは、社長の姿に親近感も生まれ感謝されます。そうすると、現場の人間関係がスムーズに運びます。

 C社長は、これらのことを期待されて、毎朝早く出勤されているわけでなく、「自分自身を戒めるためにやってます」と、おっしゃいます。もちろん、職人さんの気持ちが痛いほど理解されている思いやりの深い経営者です。

 社長や現場監督の多くは、職人さんのように襖貼りや畳工事も出来ません。大工仕事、左官工事、防水工事なども施工することは出来ません。しかし、現場作業に携わる人たちに指示、命令し、指揮監督をしなければなりません。現場で働く人たちに、気持ちよく、仕事を進めてもらわなければなりません。

 工事現場を効率よく進めていくためには、次のようなことが基本となるでしょう。

 お客さんに喜んでいただいて顧客満足を高めること。適性利益を出すこと。協力会社にも利益を提供できること。可能な限り短い工期で施工すること。無事故、無災害で施工すること。近隣の人たちと調和していること。自然環境を保全すること。働きやすい現場で従業員の満足度が高いこと。どれ一つとして、おろそかにできません。

 しかし、優先順位があります。「お客さんに喜んでいただくこと」と「働きやすい現場創り」を最優先されています。

 C社長は、いつも言われます。

「施主さんに喜んでもらえる仕事を優先します」

「それには、働きやすい現場創りが一番大事です。なぜならば、自分がいない時に、施主さんにきちんと対応できる従業員がいてくれると安心できるからです。確かに、品質、原価、工程、安全、環境に関する「技術力」も大事なことですが、施主さんに満足してもらえない工事はダメです。施主さんに喜んでもらえることが何より優先します。そう意味でも、施主さん、近隣、協力会社さんに対する「対応力」も含めて、働きやすい現場創りを目指しています」

「社長ですから、いくらでも偉そうに言えます。ダメな人間をいつでも首にできます。そんなことをしても誰も得しません。働きやすい現場を大切にしています」

 お客さんに喜んでもらえる小さな仕事と、働きやすい現場創りには、相通じるものがあります。大切な共通点があります。それは、お客さんという人の心と、現場で働くという人の心を、何よりも大事にされているからでしょう。

 確かに、適性利益を出すこと。協力会社にも利益を提供できること。可能な限り短い工期で施工することなども大事なことです。また、顧客満足を高めることも重要なことですが、一人よがりの顧客満足になっていないかの点検も必要になります。

 人の心を一番大切にされるC社長に感謝です。