経営者が知らなくてはならないのは、「企業はトップひとりの考え方で決まっていく」ということです。トップの考え方は非常に大事です。

 トップが無能だと、その下にいくら優秀な人がいても、よい仕事はできません。逆に下に無能な人が集まっていても、トップが優秀だと、下の人たちもしだいに有能になってくる傾向があります。その意味で、いちばん上に立つ人の考え方や判断の仕方は、非常に大きな影響力を持っています。

 会社にはレベルがいろいろあります。規模によって考え方が違うので、一概に言えませんが、個人企業や中小企業では、その会社がどの辺まで大きくなるかは、結局、ほとんど社長ひとりの器にかかっています。

 トップにいる人の能力以上には、会社は大きくなりません。また、トップの能力の範囲内で収まっているから「幸福」とも言えます。

 したがって、会社を現在以上に発展させようという場合には、トップが自己研鑽によって能力をアップし、天井を上げる以外に、方法はほとんどないことを知ってください。

 経営者などを読むと、「民主的経営」という概念がよく出てきます。欧米流の経営論には、「いろいろな社員の知恵を集めて、民主的に経営しなければならない」という考え方や、権限の委譲、責任の明確化がよく出てきます。

 しかし、個人企業や中小企業には、これはほとんど当てはまりません。これをそのまま実践すると、たいていは失敗します。なぜでしょうか。

 民主的経営、社員の総意を集めて行う経営は、要するに全員に責任があり、全員が管理者であるという考え方ですが、結局、トップが責任をとらない経営なのです。

 従業員は従業員であって、従業員としての目でしか見ていません。従業員に対して、会社全体の事業経営についての判断を要求しても、立場が違うので無理です。彼らは自分の仕事に合わせた見方をしているので、それを全部集めたところで正解は出ません。

 民主的経営というものは、組合対策かトップの言い逃れ以外の何ものでもなく、マスコミ受けはしても、現状には合っていません。

「ワンマン経営」は嫌われるのが普通ですが、中小企業や零細企業の場合は、実際にはワンマン経営が最も成功します。なぜかといえば、トップが自分ひとりの判断に責任をとる体制だからです。

 大きな会社になると、多くの人による会議で物事を決めていくことが多くなるので、一概に言えませんが、中小企業の場合は、トップがワンマン経営をすると、結論を出す時間が非常に早いです。会議などをしていると、時間がかかってなかなか前に進みません。

 また、ワンマン経営は環境の変化に適応しやすいという利点もあります。社員のいろいろな意見を集めていると、判断が遅れ、とんでもない間違いをすることもあります。

 したがって、ワンマン経営というと言葉は悪いのですが、プラスの方向で見ると、それはリーダーシップが非常に生きた経営であることを知ってください。

 同族経営をしている会社は数多くあります。一般的にが同族経営は悪いことのようにイメージづけられていますが、会社の規模がそれほど大きくない場合にはあ、同族経営だと結論が非常に早く出るので、必ずしも悪いことではありません。

 一定以上の規模になった場合には、ワンマン経営では無理が生じるということです。

 要するに、「会社があまり大きくなくせいぜい三百人ぐらいまでの規模の場合には、トップの器、トップのリーダーシップがほとんどすべてである」と言えます。優秀な人を入れたところで、トップがその人を使えなければ会社は発展しません。トップの能力がすべてです。

 企業規模がそれほど大きくないときには、社長自身が職人肌の技術者であることも多いのですが、その場合は、会社の規模が大きくなると、トップの経営能力を超えることがあります。

 社長が職人肌だと、自分のやり方以外では仕事ができず、人を使えないので、一定以上の規模の会社を経営しようとすれば、経営能力がないため破綻することがよくあります。

 したがって、自分の好みや趣味で仕事をやっていきたいという、職人的傾向の非常に強い人は、自分の経営能力の範囲を知っておく必要があります。そして、自分にとって幸福な範囲のなかで、非常に質の高い経営をしていくことも一つの方法だと思います。

 大企業になることだけが、必ずしも発展ではありません。自分の能力を最も生かせる範囲内で、質の高い経営をしていくことが大事だと思います。