嶋崎藤村の処女作である若菜集に「初恋」がある。

 高校二年生の時に、藤村に興味を持ち、この詩に出会った。一連から四連まであるが、最初の一連だけは、今でも覚えている。

 

  まだあげ初めし前髪の

  林檎のもとに見えしとき

  前にさしたる花櫛の

  花ある君と思ひけり

 

「花ある君と思ひけり」は、まるで当時のU子のようであった。

 U子とは、アルバイト先で出会った。地元の防水布を製造する工場である。U子は工場内で作業していたが、私は、防水布を配達する運転手の助手で、殆ど外回りばかりであった。配達を終えて、夕方の四時頃に工場に戻る。

 可愛いU子がいる。心ときめかして、U子に語りかける。

「今度の日曜日にデイトしない?」

「いいよ。ところで、どこへ行くの?」

「信貴山に行こう」

「信貴山?」

「どこでもいいよ。きみとデイトできたら最高だよ」

 後で知った事であるが、U子とは、同じ中学校の同学年であった。中学校時代は、一度も同じクラスになった事もなく、全く知らなかった。こんなステキな女の子がいるなんて思っても見なかった。高校は互いに違う学校に通っていた。

 さて、デイトの当日。

 U子は同級生の二人と一緒に約束の場所に来た。驚きのデイトになった。女の子三人と男一人。花いっぱいの初恋であった。これが初恋と言えるかどうか、私にとっては記念すべき日となった。

 小柄であるが、なまめかしく色っぽいさまが、私をとりこにした。

 その後、何度か、U子とデイトを重ねたが、もちろん二回目からは、二人だけである。そのたびに、私の心は、U子一色に染まっていった。U子もそれに答えてくれた。

 十七歳の夏にU子に出会って、まさに「花ある君と思ひけり」の心境に包まれた。

 U子と、幸せランラン、幸せドンドンで走り続けた。