初恋と言えば、島崎藤村の「初恋」という詩を思い出します。「若菜集(わかなしゅう)」という詩集に収められています。

 高二の夏休みに図書室にこもって、島崎藤村の事を調べていましたら、「初恋」に出会いました。私にとっては、忘れなれない詩の一つです。

 

 まだあげ初(そ)めし前髪の
 林檎のもとに見えしとき
 前にさしたる花櫛(はなぐし)の
 花ある君と思ひけり

 やさしく白き手をのべて
 林檎をわれにあたへしは
 薄紅(うすくれない)の秋の実に
 人こひ初(そ)めしはじめなり

 わがこゝろなきためいきの
 その髪の毛にかゝるとき
 たのしき恋の盃さかづきを
 君が情(なさ)けに酌(く)みしかな

 林檎畑の樹(こ)の下に
 おのづからなる細道(ほそみち)は
 誰(た)が踏みそめしかたみぞと
 問ひたまふこそこひしけれ

 

同じ頃にアルバイト先で、私は恋をしました。同じ中学校の同学年でしたが、同じクラスになったこともなく全く知りませんでした。高校も違いましたが、アルバイト先で知り合ったわけです。なぜか、藤村の「初恋」と重なり、忘れられない人となりました。花ちゃん、ごめんなさい。

「花ある君と思ひけり」とは「花のように美しいあなた」という意味でしょうか。「花ある君」という表現で、相手の美しさを花に例えています。何とも言えませんね。

彼女とは、四年ぐらい付き合っていましたが、ちょっとした誤解から、彼女は私の元から離れていきました。電車の中で、仲の良い従妹と話をしているところを見られて、誤解を与えてしまいました。誤解を解く努力もしましたが、やはり、彼女とは縁がなかったのでしょう。

彼女から教えてもらった事は数しれません。私にとっては、初恋はある意味で、女性に対する精神的高みを育ててくれました。離れてから現在まで一度もお会いしていませんが、今でも彼女に感謝しています。彼女との初恋は、良き思い出になり、青春の一頁を飾ってくれました。初恋も時には、幸せを運んでくれる応援歌の一つかもしれません。