1.表示登記と保存登記をすること
未登記不動産がある場合は、先に表示登記と保存登記を済ませ、信託登記になります。つまり、委託者名義に表示登記をして、委託者名義に所有権保存登記を経て、受託者名義に所有権移転及び信託の登記申請をしなければいけません。
信託法14条には、次のように規定されています。
(信託財産に属する財産の対抗要件)
第十四条 登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産については、信託の登記又は登録をしなければ、当該財産が信託財産に属することを第三者に対抗することができない。 |
不動産に関しては、きちんと信託登記をしておかないと第三者に対抗できない事を定めています。未登記不動産があると、表示登記や保存登記の余分な手続が伴いますが、ここは費用をかけても省略できないところです。
固定資産評価証明書を入手すれば、未登記不動産は判明します。但し、まれに固定資産資産評価証明書に記載されていない建物が存在する時があります。ゆえに、信託契約書の財産目録を作成される時は、登記されている不動産謄本、固定資産評価書を入手され、確認すべきです。
また、現実に実体調査も必要になってくるケースもあります。私が依頼を受けた民事信託の案件にも未登記不動産があり、さらに評価証明書にも記載されていない未登記不動産がありました。このような時は土地家屋調査士さんに相談され、固定資産評価証明書に記載されていない未登記の不動産も調査し、きちんと表示登記をした後、司法書士さんに保続登記と同時に信託登記を依頼し進めることになります。
2.未登記不動産をきちんと登記する理由
未登記不動産をきちんと登記する理由は、受託者に信託財産の「分別管理義務」があるからです。根拠条文は信託法34条の1項1号と2項です。
「分別管理義務」とは、信託財産と受託者の個人的財産とは別々に管理しなさいという意味です。また、受託者自身が複数の信託を受託している場合は、その信託ごとに財産を分別管理しなければならないというのが、この分別管理義務です。
分別管理義務の具体的な内容は、財産の内容に応じて分別の方法が規定されています。
上記の信託法14条の信託の登記又は登録をすることができる財産について、34条1項1号に定めています。代表的なものは不動産であり、信託の登記をしなければなりません。
簡単に言えば、信託財産と受託者の個人的な財産はきちんと区別して管理し、信託不動産に関しては、信託登記をしなさいと言っています。
根拠条文は以下のとおりです。
(分別管理義務)
第三十四条 受託者は、信託財産に属する財産と固有財産及び他の信託の信託財産に属する財産とを、次の各号に掲げる財産の区分に応じ、当該各号に定める方法により、分別して管理しなければならない。ただし、分別して管理する方法について、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。 一 第十四条の信託の登記又は登録をすることができる財産(第三号に掲げるものを除く。) 当該信託の登記又は登録 二 第十四条の信託の登記又は登録をすることができない財産(次号に掲げるものを除く。) 次のイ又はロに掲げる財産の区分に応じ、当該イ又はロに定める方法 イ 動産(金銭を除く。) 信託財産に属する財産と固有財産及び他の信託の信託財産に属する財産とを外形上区別することができる状態で保管する方法 ロ 金銭その他のイに掲げる財産以外の財産 その計算を明らかにする方法 三 法務省令で定める財産 当該財産を適切に分別して管理する方法として法務省令で定めるもの 2 前項ただし書の規定にかかわらず、同項第一号に掲げる財産について第十四条の信託の登記又は登録をする義務は、これを免除することができない。 |
3.第三者に対抗できないリスクがある
未登記の不動産をきちんと信託財産として信託登記をしなかった場合、受託者にリスクが伴うケースが発生します。
仮に委託者が自分名義で表示登記から保存登記をして、第三者に売却した場合、その不動産は第三者の名義になります。当然ですが、その不動産は信託財産とならず、その第三者のものになってしまいます。この場合、信託財産に損失が発生したことになり、受託者はその損失を自分のお金で穴埋めしなければいけません。(信託法第40条第1項1号)
この場合、受託者は分別管理義務違反と損失との間に因果関係が存在しないことを証明できないかぎり、免責されません。(信託法第40条第4項)
根拠条文は以下のとおりです。
(受託者の損失てん補責任等)
第四十条 受託者がその任務を怠ったことによって次の各号に掲げる場合に該当するに至ったときは、受益者は、当該受託者に対し、当該各号に定める措置を請求することができる。ただし、第二号に定める措置にあっては、原状の回復が著しく困難であるとき、原状の回復をするのに過分の費用を要するとき、その他受託者に原状の回復をさせることを不適当とする特別の事情があるときは、この限りでない。 一 信託財産に損失が生じた場合 当該損失のてん補 二 信託財産に変更が生じた場合 原状の回復 2 受託者が第二十八条の規定に違反して信託事務の処理を第三者に委託した場合において、信託財産に損失又は変更を生じたときは、受託者は、第三者に委託をしなかったとしても損失又は変更が生じたことを証明しなければ、前項の責任を免れることができない。 3 受託者が第三十条、第三十一条第一項及び第二項又は第三十二条第一項及び第二項の規定に違反する行為をした場合には、受託者は、当該行為によって受託者又はその利害関係人が得た利益の額と同額の損失を信託財産に生じさせたものと推定する。 4 受託者が第三十四条の規定に違反して信託財産に属する財産を管理した場合において、信託財産に損失又は変更を生じたときは、受託者は、同条の規定に従い分別して管理をしたとしても損失又は変更が生じたことを証明しなければ、第一項の責任を免れることができない。 |