韓国籍の方の事例です。申請者の妻は昭和18年生まれで、韓国の戸籍謄本にも、両親兄弟がきちんと載っていました。ご本人の話では、日本の役所に「出生届」は出ていないということでしたが、念のため郵便で出生届の請求をしました。昭和18年生まれの場合、殆どの役所には保管されていませんが、戦災にあっていない役所だったのか、その方の出生届が送られてきました。その出生届を見て驚き。母親が戸籍と違っていました。

ご本人からは、戸籍の方が母親と聞いていましたので、すぐに電話しました。

「どうしてわかったのですか」

「出生届があったのです」。

「私の帰化は大丈夫でしょうか」

「大丈夫ですよ。他にうそをついていることはありませんか」

「ありません」

「本当にありませんか。虚偽の申請をすれば、帰化になりませんよ」

「母親のことだけです。戸籍を訂正する必要がありますか」

「戸籍の訂正をする必要がありません」

このケースの場合は、韓国の戸籍を訂正する必要がありません。日本の役所に出している「出生届」で、母親の認定をしてもらえるからです。

 

帰化になった場合、日本の戸籍が編成されることになります。したがって、帰化申請の際には、出生事項、婚姻事項、父母の氏名及び続柄等戸籍に記載すべき事項を認定するに足る資料を提出する必要があります。

帰化後に編成される戸籍には真実の身分関係を記載すべきことは当然ですが、公的資料に表れた身分関係(以下、「表見上の身分関係」という)と真実の身分関係とが相違していたり、公的資料で齟齬(そご)していたりすることがあります。このような場合には、帰化申請を処理する法務局から、裁判等の手続によって表見上の身分関係を真実の身分関係に合致させるよう求められることがあります。実務上、「身分関係の整序」と呼ばれるものです。もっとも、身分関係の整序は、常に必要であるというわけではなく、必要な場合と不要な場合があります。今回のケースは、身分関係(戸籍)の整序をしなくても帰化申請できます。

真実の母子関係を証明する資料がなく、父母等関係者の供述も確たるものでないときは、裁判手続により身分関係を整序する(真実の母子関係を確定する)必要があります。しかし、日本の市区町村長に届出された出生届や母子手帳、父母、助産婦等出生当時の状況を知っている者の供述等により、真実の母子関係が認定できる場合は身分関係の整序は必要でないという取扱いがされています。その理由は、母子関係については、分娩という事実があれば、母からの認知なくして法律上の母子関係が生じると解されているからです。