所得を確定する時の基準として、権利確定主義と管理支配基準がある。

権利確定主義は、法律をベイスに権利が確定したときに、所得とする考え方である。所得税法36条1項に「各種所得の金額の計算上収入とすべき金額又は総収入に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする」と規定している。つまり、収入すべき金額とあり、現金主義はもちろんのこと、発生主義や実現主義で収入金額を認識し、法律に基づいて所得を確定することを、権利確定主義という。

管理支配基準は、収入すべき権利が確定した時期を判定する際に法的な観点を重視した場合には、説明が困難な領域が存在する[1]。具体的には、①不法な原因により得た収益、または、②将来における商品の販売または役務提供を約して代金(前受金等)を受領しながら、事後的には、事実上給付義務を免れることによって得た利得について、法的な観点から権利の確定を観念することは難しい[2]

しかしながら、これらの経済的利益も法人税法における所得を構成する以上、事実上、確定的な利益を享受するに至ったにもかかわらず、公正処理基準にも反すると考えられる。そのため、対価等が現実に納税者の管理支配下に入ったと評価できる時点で収益を認識することが認められている[3]

また、権利の確定という「法的基準」ですべての場合を律するのは妥当ではなく、場合によっては、利得が納税者のコントロールのもとに入ったという意味での「管理支配基準」を適用するのが妥当な場合もある[4]。さらに、管理支配基準の適用は、租税法律関係を不安定にするおそれがあるから、その適用範囲をみだりに拡大しないように注意する必要がある[5]

上述のとおり、権利確定主義は原則的な基準であり、管理支配基準は例外的な基準だと理解する。例えば、農地の譲渡につき、知事または農業委員会の許可が必要である場合には、現実の引渡と代金の授受が行われていても、許可があるまでは、所得があったといえない[6]。農地法という法律を基準にして、所得を確定させるので権利確定基準になる。また、同じ農地の譲渡において、知事の許可のあった年度よりも前の年度に引渡と代金の授受が完了し、譲渡人が自らそれを所得として申告しているような場合には、管理支配基準を適用してよいであろう[7]。と、管理支配基準の適用範囲を示している。

 

[1] 中里実他編著『租税法概説』155頁(有斐閣、2015年)

[2] 中里・同前155頁(2015年)

[3] 中里・同前155頁(2015年)

[4] 金子宏『租税法(第21版)』286頁(弘文堂、2016年)

[5] 金子・同前286頁

[6] 金子・同前285頁

[7] 金子・同前286頁