民事信託の実務と信託契約書例(ひまわり信託研究会・伊庭潔編著)の12頁から14頁には、信託特有の考え方や特徴が書かれています。以下、引用部分です。
1.信認関係
信託は信じて託すことである。信託制度が認められる根本には、委託者と受託書及び受託者と受益者との間に、信認関係があることが前提となっている。当事者間の信認関係を前提としている点では、他の法律行為とは異なっているのが特徴である。
2.委託者が死亡しても信託は終了するとは限らないこと
信託では委託者と受託者の間に高度の信頼関係があることを前提としている。そのため、信託を設定した当事者である委託者が死亡した場合に信託契約は終了するのではないかと考えられるかもしれない。例えば、委任においては、委任者または受任者の死亡により、委任は終了する(民法653条1号)。
しかし、信託では、信託契約により、委託者の死亡により信託を終了させることとしていない場合には、委託者が死亡したとしても、信託契約はは終了しない。委託者は死亡したが委託者の地位が相続されることなく、委託者の地位に立つ者が存在しなくなったとしても、信託自体は存続することになる。この場合には、受託者及び受益者だけで信託の主体は構成されることになり、受託者は、受益者に対し、善管注意義務や忠実義務などの各種義務を負うことになる。
当初の信託行為の主体である委託者が死亡し、委託者が存在しなくなったとしても、信託の仕組み自体が終了するとは限らない。二当事者対立構造を前提として考えると、一見、分かりにくい法的状況ではあるが、信託とはこのような仕組みであると理解して欲しい。
3.形式的権利帰属者と実質的利益享受者が分かれていること
信託において、受託者は委託者から信託財産を取得する。受託者は、受益者のために、委託者から取得した信託財産を管理または処分等を行う者である。その意味で、受託者はあくまでも形式的な権利の帰属主体であり、他方、受益者は実質的利益の享受主体である。
このように、信託では、形式的な権利帰属者(受託者)と実質的利益享受者(受益者)が分かれているところに特徴がある。また、この形式的権利帰属者(受託者)と実質的利益享受者(受益者)が分化していることが信託を分かりにくくしている要因でもある。
4.信託財産は、受託者の一般債権者に対する責任財産とはならないこと
(信託財産の独立性)
信託では、受託者を財産の管理者としての役割を全うさせるために、仮に、受託者の経済状況が悪化しても、受託者が管理している信託財産は影響を受けないような仕組みになっている。同じ受託者に帰属する財産であっても、信託財産と受託者の固有財産とは全く別のものとして扱われるのである。これを信託財産の独立性と呼ぶ。
しかし、この信託財産の独立性を悪用することによって、信託の仕組みを利用し財産の隠匿など不正行為が行われることもある。信託が適正に利用されるようにすることも、信託の組成に関わる者として、十分に注意をしなければならないところである。
5.委託者は、受益権の発生、変更、消滅及び帰属等を自由に定められること
(信託の柔軟性)
信託では、委託者が受託者との間の合意(信託契約)または遺言することによって自らが希望したとおりに、受益権を発生させることも、その受益権の内容を変更することも、受益権を消滅させることもできる。
また委託者は、受益権の帰属も決めることができ、特定の受益者が死亡した際に、当該受益権をその者の相続人に取得させることも、また、相続人以外の者に取得させることもできる。
このように信託においては.委託者は受益権の帰趨(きすう)を自由に決めることができるのである。これらの特徴は、信託に柔軟性があることを表している。