H社長は木造建築の専門家ですが、蔵の営繕工事や指物師のように建具工事も手掛けられている名大工さんです。素敵なお話が三つあります。

 一つ目は、大工の腕とお人柄の良さを見込まれて、何と10億円の高齢者住宅を受注されました。宮大工に近い棟梁の下で20年以上も経験され独立されていますので、仕事にかける情熱は目を見張るものがあります。その上、お人柄も極上で、多くの方から愛されています。

 10億円の元請工事は、小学生時代の友人からの依頼です。余程、信頼関係で結ばれているのですね。独立されて20年近くなりますが、H社長ご自身もびっくりされています。普通はあり得ないことです。H社長のお人柄が引き寄せたと思っています。すごいことです。

 二つ目は、屋根工事のお話です。

 建設業者は、毎年の決算変更届(業務報告)を役所に提出します。その中に1年間の工事経歴書を添付して報告します。H社長の会社は、建築工事で許可を得ていますので、一般的には屋根工事を工事経歴書に載せることはできません。普通は、屋根工事は専門工種の範疇に入り、建築工事に該当しません。瓦の葺き替え等が屋根工事の一例です。

 ところが、H社長が施工された屋根工事は、単純な屋根工事ではありません。重量もかかり躯体(くたい)部分も補修し、庇(ひさし)も、壁部分も補強しなければなりません。その他、家の大半に影響してくる工事でした。なるほど、注文書に屋根工事と書いていますが、通通の屋根工事とは違いました。

 役所の方は、最初は「これは建築工事には該当しません。屋根工事ですから、その他工事に載せてください」と否定されました。H社長は引き下がりません。見積書と図面も提出されて、自信を持って説明されました。確かに見積書と図面を見れば、単純な屋根工事でないことがすぐに判明し、役所の方も納得されて建築工事を認めてくださいました。

 新築工事や躯体補修が伴うリホーム工事は、文句なしに建築工事と判断しやすいのですが、単純に注文書に屋根工事と書かれていては、誤解しやすいです。躯体補修等を含んでいるリホーム工事と同様に判断するのが妥当です。さすが、H社長です。私も非常に勉強になりました。

 三つ目は、最近、自宅兼会社の事務所を新築され、まもなく完成予定です。何とその中に露天風呂を設置されました。サウナ付きです。H社長に尋ねました。

「なぜ、露天風呂を作られたのですか」

「土曜日の週一回ですが、従業員の癒しと自分の癒しも含めて作りました。私も長い間、職人生活をしていましたので、職人さんの気持ちが痛いほど分かります。土曜日の午後にみんなで裸になって、同じ目線で、体と心を癒す空間がほしかったのです」。

 H社長の深い思いやりが伝わってきます。10億円の仕事も、屋根工事の話も、露天風呂の設置も、すべてH社長の良き人柄と仕事への情熱がなせる業です。これも社長の条件に欠かせない素敵な要素だと思います。