民事信託は家族信託とも呼ばれ、「いちばんわかりやすい家族信託のはなし(川嵜一夫著)」という書籍の34頁には、次のように書かれています。
「誤解を恐れずにいえば、任意後見と遺言を合体させたような制度です」と表現されています。また46頁には、「私の財産をあなたに託します。だから、あの人のことを頼みます」とも表現されています。
石川秀樹先生の「成年後見より家族信託」の書籍2頁には、家族信託とは「あなたの分身をつくる仕組みです」と書かれています。石川先生とは知遇を得て、民事信託について、お世話になりました。
さらに「新しい家族信託(遠藤英嗣著)」という書籍の3頁には、次のように書かれています。「信託とは、ある人(委託者という)が、自分が有する一定の財産を別扱いとして、信頼できる人(受託者という)にその管理を託して名義を移し、この託された人において、その財産を一定の目的に従って管理活用処分し、その中で託された財産や運用益を特定の人(受益者という)に給付しあるいは財産そのものを引き渡し、その目的を達成する制度である」。
つまり、信託は初めから三当事者を前提にしています。上記のように、三当事者は、委託者、受託者、受益者と呼ばれています。
1.委託者
信託法2条4項には、信託をする主体を委託者というと規定されています。
委託者は、信託によって実現しようとする目的(信託目的)のために、自らの財産(信託財産)を受託者に預けます。委託者は、自らの意思どおりに信託財産が管理または処分などされるようにするために、各種の監督権限を有しています。
2.受託者
信託法2条5項には、受託者について規定されています。
委託者から預けられた財産(信託財産)を管理または処分などする義務を負う者を受託者といいます。受託者は、委託者が定めた方針(信託行為)にしたがって、預かった財産の管理または処分などを行います。
受託者は、自己の名義で財産を管理または処分などを行うため、その権限の濫用または逸脱が懸念されます。そこで、信託法では、この受託者の権限の濫用または逸脱をどのようにコントロールするかが一番重要な課題となり、受託者には善管注意義務や忠実義務など多くの法的義務が課せられています。信託法29条から37条に規定されています。
3.受益者
信託法2条6項には、受益者について規定されています。
受益者とは、受託者から信託財産に係る給付を受ける権利などを有する者をいいます。信託は、この受益者に利益を与えることを目的として設定されいます。
受益者は、自らの利益を守るために、受託者を監視、監督する役割を担っています。権限の濫用または逸脱をしやすい受託者を監視、監督する第一次的な地位にあるのは受益者です。