得意先のM社長は、プラント工事の専門家です。

 元々、一般土木工事から事業を始められたのですが、常に付加価値の高い土木工事を手掛けるために、猛勉強しながら努力されています。汚泥関係の土木工事もその一つで、土木工事の中でも付加価値が高い工事と言えます。

 汚泥関係の土木工事に関しては、彼は全くの素人でしたが、その現場を細かく観察しながら、勉強されます。人の10倍ぐらいの速さで、その施工方法を習得されていきます。どのようにしたら他社より早く、その工事を完成することができるかを、独自の方法で構築されます。ここが彼のすごいところです。普通の土木業者にない先見性と習得術を持っていらっしゃいます。もっとも、M社長のような方は、珍しくないですが数少ないと思います。私は、いつもビル・ゲイツの小型版と評しています。

 数年前に個人事業から法人を立ち上げ、引き続き、汚泥関係の土木工事もされていましたが、ある工場長の出会いから、プラント工事を手掛ける知遇を得ることになりました。プラント工事の内容ですが、工場に複数の設備(機械器具)を構築していく仕事です。機械設計の図面に始まり、機械器具を制作し、それを工場内に設置する一連の工事内容です。

 もちろん、M社長にとっては、プラント工事もずぶの素人でした。汚泥工事の時と同じように、プラント工事の元請業者にも知遇を得て、その現場を観察されて習得されていきます。何度も何度も現場に足を運ぶうちに、元請業者の下請工事を頼まれるようになり、現実に機械器具の設置からスタートされました。

 プラント工事の下請をしながら、常に工夫を怠らず、元請業者より良いものを提供できないか、工期を短縮できないか、もっと便利な機械を創ることができないかと、来る日も来る日も考え続け、独自の施工方法を構築されていきます。それに係る先行投資には惜しげもなくお金を遣われます。半端なお金ではありません。

 やがて、その工場長から声がかかります。既存の元請業者よりもM社長の施工方法がはるかに優れていることが分かり、M社長に出番が廻ってきました。もちろん、既存の元請業者の社長も、M社長の素晴らしさを認められて、今では二社で付加価値を高めるために、日々、創意工夫をされています。

 ある日、M社長に尋ねました。

「どうして、プラント工事を始めるようになったのですか」

「お金の匂いがしたんです。工場長から発せられるオーラにお金の匂いがしたんです」

 これだけの理由で、プラント工事を始められて、今では、工場内の機械を設置するだけでなく、機械図面の設計から始まり、機械の制作、設置まで、まさにプラント工事の機械屋さんの仕事に徹せられています。通常、機械図面はメーカーの仕事ですが、ここでもM社長のチャレンジ精神は半端ではありません。

 なんと、機械図面を3DのCADで作成されます。これに関しても全くの素人でした。最初はライン一本引くのに四時間もかかったそうです。今では、見事に3Dで図面を作成されます。完成させるのに最低三ヶ月。睡眠時間を削っての仕事ですので、目、肩、首のこりがひどく、何度も吐いてしまったそうです。そこまで努力された作品です。

 その3Dを見せてもらったことがあります。ものすごく分かりやすいです。M社長いわく、「IKEAの家具のように説明しなくても、どんな家具が一目瞭然で分かります。私の3Dも全く同じで、誰が見ても分かります」。私が見ても、メーカーの図面より優れていることが分かりました。

 3Dの作成方法は、専門化と言われる機械屋さんの師匠から手ほどきを受けたそうですが、あとは独学です。通常は図面を引くことを仕事にされている方でも、機械図面を3Dで完成させるまでに至りません。途中で投げ出してしまう方が殆どです。その師匠いわく、「素人で、ここまで見事に完成させる人は殆どいません」。

 3Dの機械図面の素人であったM社長は、見事に完成させた3D(PC)を持ち運んで、新規の施主さんに説明されます。施主さんが3Dを見た瞬間に「何と分かりやすい」と言われます。殆ど説明が不要で納得されるそうです。もちろん、そのプラント工事をM社長に依頼されます。プラント工事ですから、数億円の請負金額になります。最高の先行投資です。

 このように、何かに特化した工事は付加価値を生み、零細企業が生き残っていく一つです。M社長は、それを見事に開花された社長です。