おそらく、九割以上の会社では、トップに代わるような人材は社内には殆どいないであろうと思われますが、帝王学を身につけるために大事なことは、「原理・原則を教えてくれる師を持つ」ということです。
つまり、「物事の基本的な考え方や方向性は、こういうものであり、これに基づいて判断しなさい」ということを教えてくれる師を持つことが大事なのです。
内容のある真の書籍等では、人生の指針や組織の指針、あるいは、国のあるべき姿、経営者のあるべき姿等を教えてくれます。
このように、原理・原則を教える師、あるいは、メンター(精神的指導者)と言ってもよいのですが、基本的に、トップは、自分が悩んだときに戻っていくべきところを持っていなければいけないと思います。
なぜかと言うと、トップには、個別具体的な悩みについて答えてくれる人がいないことが多く、さらに、将来の未知なることについて、「現段階では答えがない」ということも非常に多いからです。
そういう未知なるもの、今まで出くわしたことがないものに当たったときには、基本的には、原理・原則に照らし、「どのようにすべきか」ということを考えなければいけません。
例えば、有名なメンターとしては、ピーター・ドラッカー氏や松下幸之助氏、あるいは、一倉定氏など、いろいろな人がいます。そういう人たちのなかから、自分の会社の規模に合った考え方を説いている人を選ぶわけです。
ドラッカー氏の経営論には、一般的に大企業向けの内容が多いので、従業員数が五千人以上の企業には、彼の考え方がかなり当てはまりますが、千人以下の企業になると、当てはまらないものもかなり出てきます。また、従業員数が千人から五千人ぐらいの規模の企業だと、当てはまったり当てはまらなかったりするようになります。
ドラッカー氏の場合、従業員数が数万人から数十万人いる大企業の分析が多かったため、彼の考え方は、すべての企業に当てはまるわけではなく、会社の規模が小さいと当てはまらなくなるのです。
むしろ、会社の規模が数百人ぐらいまでであれば、一倉定氏などの意見のほうがよく当ります。しかし、従業員数が千人から五千人の間では、ドラッカー氏と一倉定氏の両方の考え方が当たったり外れたりするようになるため、このくらいの規模の企業は経営が非常に難しいのです。
松下幸之助氏も、よい意見を述べていますが、それは、彼の会社がだいぶ大きくなってからつくられた思想です。
したがって、従業員が数万人から数十万人いる会社なら当てはまるかもしれませんが、従業員が数十人から数百人ぐらいの、これから成長していく会社の場合には、将来の志としてはよくても、そのとおり実践したら駄目になる場合がよくあります。
このあたりをきちんと解釈し分けないと、間違いを犯すことがあるので気をつけなければいけません。「会社の規模相応に、経営に対する考え方が違ってくる」ということです。
一倉定氏の「社長シリーズ」は、中小零細企業の社長が読むべき書物で、お勧めします。
一倉定氏は、私の師匠でもありました。