遺跡発掘工事の専門業者である某社のお話です。40年近くもお世話になっている超優良会社です。先代の社長さんがお元気な頃に、お嬢さんの専務さんが経営コンサル業者に、経営指導を依頼されました。殆ど専務さんの独断で実行されましたので、父親の社長は猛反対でした。

 しばらくして、社長から電話を頂戴しました。

「先生、何とかして、娘に言ってください。今の経営コンサルを断るように。お願いします」

「社長、突然にどういうことですか。今の経営コンサル業者がダメなんですか」

「そうなんですよ。娘も娘ですが、大手会社の真似をして社内改善をしようとして、経営コンサル業者を頼みました。ところが、くだらん社内規程を次から次へ作るだけで、何のアドバイスもありません。私は納得がいかないんです。娘に言うてください。やめるように」

「近々、建設業の更新で伺う予定をしています。その際にじっくりお話を伺います」

「先生、頼みます」

「承知いたしました」

 後日、社長さんと専務さんを交えて、経営コンサルなどの話をさせていただきました。

 なるほど、社長さんのおっしゃるとおり、山ほどの社内規程を見せてもらいました。正直、今の某会社には不要な規程集ばかりでした。私自身の印象でも、あまり優秀なコンサル業者とは思いませんでした。そこで、専務さんに尋ねてみました。

「専務さん、このような社内規程ばかり作られて、本当に会社が発展していくと思いますか」

「いつもお世話になっている大手会社からの紹介でもあり、断りきれず、お願いすることにしました。私の勉強だと思い契約し、二ヶ月前から来てもらっています。しかし、期待していたほどのこともなく、落胆しました。でも一年契約してしまいました。今さら、どうしようもありませんが、契約更新はしません」

「そうだったんですか。一度、解約の話をされてはいかがですか。ダメもとで」

「分かりました。一度、掛け合ってみます。それにしても、経営コンサルって、こんなもんですか。先生がいつも言ってくださる『ダム経営』の方が、よっぽどタメになります」

「専務さん、経営コンサルも様々で、優秀な先生もいらっしゃいます。しかし、これは一般論ですが、経営コンサルの90%はよくないケースが多いらしいです」

「私の持論ですが、中小零細の場合は、社長ご自身が最高の経営コンサルタントなんですよ。もちろん、専務さんも同じことです。社長さんと専務さんの二人三脚で、ここまで苦労されて、繁栄発展されて来たんです。社長さんも専務さんも毎朝4時に起床されて、職人さん達のお茶の準備をされて、現場に送りだされます。遺跡の発掘工事に関しては、お二人とも立派な経営コンサルタントです」

 コンサルの件は、一段落がついたので、私は良い機会だと思い、改めて「ダム経営」の話を真剣にさせていただきました。

 以来、特に専務さんは「ダム経営」を実践され、数年で無借金経営の会社になりました。その後も本気になって「ダム経営」を実践されました。20年近くで、見事な「ダム経営」の会社に成長しました。詳細は省きますが、元々、優秀な会社でしたから、当然と言えば当然です。

 従業員が何百人、何千人もいる会社の場合なら、優秀なコンサル業者も時には必要でしょうが、中小零細に関しては、社長が最高の経営コンサルタントです。社長の一言ですべてが決まります。ここが中小零細の良いところでもあり、下手すれば悪い方向に進む場合もあります。気を付けてください。

 ゆえに、お金のダムだけでなく、人材のダム、信用のダム、人格のダムも膨らませていかなければなりません。特に、社長の人格が向上すればするほど、人格のダムが形成されていきますので、自ずから、人材のダムも、信用のダムも、お金のダムも達成されていきます。

 これも私の持論ですが、ダム経営を本気になって実践されれば、経営コンサルタントは不要だと考えています。社長が最高の経営コンサルタントです。