「上司を尊敬する」ということの反面とも言えますが、「部下を愛する」ということなくして成功する人もまたいません。

「自分は自分の力で偉くなったのだ」と思い上がっている人もいるかもしれません。しかし、自分の部下に愛されなくて、偉くなれる人はいません。一時的に、そういう現象が起きたとしても、その人は、やがて、必ず、人々の信を失い、長たる資格を失っていくことになります。

 私も行政書士を開業し人を雇うようになって、「スタッフを愛する」「スタッフを大事にする」という気持ちが、徐々に分かってきました。最初のうちは、このことの重要さに気づいていませんでした。雇っては辞めていく、また雇っては辞めていくの繰返しが続きました。こういうことがあってからは、スタッフを大事にする、スタッフを愛するという想いに自分の心を換えていった時にスタッフが定着するようになってきました。

 では、「部下を愛する」とは、どういうことでしょうか。それは、「その人の持つ、良いところを伸ばしてやる」ということ、また、「悪いところがあったら注意をする」ということでしょう。部下というのは、たまたまの巡り合わせで来ることもありますが、上司は、自分の部下を、人間的にも立派になるように、将来、仕事で一人前になって立っていけるように、さらに、高い立場に立ってもやっていけるようにしていくことが大事です。

 この際に、いちばん気をつけなければならないことは、「部下の才能に嫉妬してはならない」ということでしょう。

 優秀な部下が来たときに、ともすれば、その部下に嫉妬しがちな人がいます。「何とかして足を引っ張ってみたい。ケチをつけてみたい」という気持ちを持つ人もいます。

 しかし、そういう気持ちでいては、その部下が出世できないことは当然のことですが、そのような評価を下すあなた自身も、そこで出世が止まることになります。

 本当に偉くなっていく人というのは、「才能を愛する」という傾向を持っています。自分にない才能を持っている人を愛し、自分にない素晴らしい面がある人を愛し、そして、育てていこうとする気持ちがあります。

「部下を愛する」という気持ちは、実は、「自分とは違った個性である部下を、その個性のままに伸ばしていきたい」という気持ちを持つことも意味しています。むしろ、自分より優れた人物を配下において、それを自慢にするぐらいの高い心境にならなければいけないということでしょう。そのくらいの心境になって初めて、その人も出世していけるのだと思います。

 上司が部下を愛さなければ、いったい誰が、その上司を支えてくれるのでしょうか。人間は、自分一人の力で偉くなれるものではなく、やはり、人に担(かつ)がれて偉くなるものです。人に押し上げられて偉くなります。新任されて偉くなります。その無言の雰囲気が、実は、出世の力となっていきます。

 したがって、「あなたの下で働けてよかった」と言われるような、あなたとならばければいけません。

 この際に、自分より年若い者のなかに、自分より優れたものを見いだしたとしても、それをほめられるような、それを育てられるような、そういう心境になってください。そうしなければ、あなた自身が、よりいっそう向上するということはありません。精神的な高みに上がるということはありません。

 何度も何度も繰り返しますが、このことを忘れないでいただきたいと思います。